6 「いつ起きるのか見てたが、全然起きないな、お前」 「う、うるさいな…!疲れてたんだよ。つか渥こそどうしてここが」 「親に聞いた。今日会ったらしいな。相変わらず可愛いって褒めてたぞ」 「いや、自分の母親可愛いって言われても……じゃなくて!なんでここに居るんだよ!母さんは!?」 「おまえの母さんなら雨降ってきたから親父さん迎えに行ったよ」 そういえば、雨が降っていた。カーテンをシャッと勢いよく開けて見ると結構な降りようだった。 「帰ってくるまでおまえの部屋で待っててと言われて来てみたら、部屋の主はぐっすり眠ってるし、起きる気配ないし、寝る子は育つんじゃなかったのか」 「悪かったな!そこまで育ってなくて!」 ふん!と横を向くと、ハハと笑う声が聞こえた。 「……」 渥が笑っている。 昔と同じように、整った顔立ちが笑うと猫のように愛嬌がある顔になる。元が整いすぎた顔立ちなため無表情だと人を寄せ付けない冷酷さを感じてしまうが、笑うと一気に人を安心させるようなその笑顔が好きでよく渥を笑わせようとアホなことを言ったりやったりしていた。 ベッドの近くまで来ていた渥は、その人懐っこい笑顔を浮かべたまま、あの頃よりだいぶ大きくなった手のひらを俺の頭に置いて、サラッと髪をなでた。 「変わらないな睦人は」 「……お前は、変わりすぎだろ…」 「俺、どう変わった?」 渥が近くに寄ったことで、佳威とはまた違った魅力的な香りが鼻腔に広がる。 なんだよ、こっちの男子高校生はみんなこんないい匂いすんのかよ。 「どうって……昔の方がかわいかった」 「今でも十分かわいいだろ」 「かわいい要素はどこにもないし、そんな意地悪そうな顔はしてなかった」 「酷い言いようだな」 渥が喉の奥で笑った。 …おい。なんで俺たちこんな普通に喋ってるんだ。昼間の態度はなんだったっていんだ。昼間…そうだ、俺のことを知らないなんて言ったんだぞ!? 「そうだよ!渥!….なんで、昼間はあんなこと言ったんだ…?」 「昼間?」 「俺のこと知らない、とか…言っただろ」 「ああ…」 渥は俺の頭から静かに手を離すと、ゆっくりと俺の横に腰を降ろした。重さにベットが軋む。 「お前には関係ないことだ」 「は…?」 俺に関係ない、だと? 「んなわけあるか!関係あるだろ!ちゃんと説明しろよ!」 カッとなってつい大きな声を出してしまったが、渥はそんな俺を一瞥しただけで大した反応をせず「話す必要はない」とまた冷たく言い放った。 「〜…っ」 どう考えたって腑に落ちない。 それに小さい頃はそんな風に渥から冷たくあしらわれたことが無かった俺は戸惑ってしまった。 「…なんでそんなこと言うんだよ」 「なにが」 「渥…なんか冷たいよ。…俺たち親友じゃなかったのか」 「………」 渥の肩がピクリと震えた。 それから小さく息を吐いた。 「俺はもう昔の頃の俺じゃない。お前の親友だった荒木渥はもう居ない」 「は…何言って…」 「そのままの意味だ。今さら再会したところでもう俺たちは別の道を歩いてる。遅いんだよ」 突き放すような言葉達に鼓動が早くなる。 またか? またなのか? また渥は俺から離れようとするのだろうか。 そう考えただけで胸がズキンと傷んだ。何を言おうしているんだ、渥。せっかく再会できたのに、わけのわからないことばかり言うのはやめてくれ…!!! 「じ、じゃあ…!じゃあなんで俺の家に来たんだよ!俺に会いに来てくれたんじゃないのか…?」 渥の方に体ごと向けて訴える。渥は俺と視線を絡めてフッ…と笑った。 その笑顔は先ほど見せた俺の好きだった笑顔ではなく、作り物のような笑顔だった。 「お前に会いに来た…か。そうだな。それはあながち間違ってない。けど、目的はそうじゃない。俺はお前に忠告をしに来ただけだ」 「忠告…?」 渥は俺の背後に腕を置き体重をかけると、息がかかりそうなくらい顔を寄せた。 そして俺の瞳を感情の読めない目で捉えたまま口を開いた。 「もう二度と俺に話しかけるな。近寄るな。お前と話すのはこれで最後だ」 俺はわけのわからないまま、とにかく、泣きたくなった。 もどる | すすむ | 目次へもどる | |