紳士
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久々の仕事だったから少し時間がかかってしまったようだ。体が鈍ったってこういうことなのか、今日から筋トレ再開しよう。まずは、走り込みからかな…。そんなことを考えながらアジトの扉を開けたら、

「お帰りなさいませ、マチ様。」

笑顔で誰か見知らぬ男が立っていた。即座にドアを閉める。あんな人、知らない。仮にもA級賞金首である幻影旅団のアジトなのだから一般人が勝手に入れるわけがない。だとするとあの男は…敵、でしかない。右手に拳を作り、力を込める。

「あの、主食はパンですか?それとも、お米ですか?」

そして、男がドアを開けた瞬間に殴る。ガスッと鈍い音がした。はずなのに……え?!!驚いた。私のパンチはいとも簡単に避けられていたのだ。どうやら当たったのはアジトの壁、建物自体が頑丈に作られているためヒビが入るくらいで済んだ。よかった。もう弁償はこりごりだ。

「あんた、何者?」

男は、私のいきなりの攻撃にも驚く様子はなくニコニコと笑っている。何だこいつ、何者だよ、ニコニコ笑って気持ち悪い。最近よく来る賞金首ハンターだろうか?もしそうだったらとっとと殺るけど。私より背の高い男を見上げて睨む。勿論、殺気を放ちながら。

「あぁ…そんなに見つめられたら、貴女を好きになってしまいます。」

「・・・・・・・はぁっ?!!」

何言ってんだこいつ何言ってんだこいつ何言ってんだこいつ!?全力で引いた。気持ち悪い、ただその一言しか思い浮かばない。てゆーか本当に誰だよこいつ。

「おーい、バロン。マチを口説こうとするなとあれほど言っただろ、やめろ。」

あ、居たんだ。クロロがひょっこりと顔を出す。ていうかこいつ、クロロの知り合いなの?

「あぁ、自己紹介がまだでしたね。申し訳ありませんでした。私はバロンといいます。こちらに入団…とはいきませんがある方の命によりしばらくこちらでお世話になります。
何かありましたら全て私にお任せ下さい。皆様の身の回りこと全てサポート致します。掃除、洗濯、食事一通り家事は出来ます。勿論、お望みであれば皆様の仕事もお手伝い致します。
不束者ですが宜しくお願いします。」

ご丁寧に長々と自己紹介をしてくれた。とりあえずバロンという名前らしい。ともかく敵ではないことは確からしい。まぁ、団員でもないんだけど。そういえば、こいつクロロの言ったこと普通にスルーしなかった?
バロンは急に私の前に跪き、私の手を取り微笑みながら言った。

「マチ様、私はあなたを一目見た瞬間にあなたに心を奪われました。一生、あなたのお傍に居る所存です。」

「絶対、嫌。」

断固拒否する。誰がこんな奴と…、隣に一生こいつが居る生活を考えてみる。絶対に嫌だ。なんか嫌な予感がする。てかそんな予感は最初からしていた。ほら、なんでこんな時も私の勘は正常に機能しているんだろう…。たまには外れろよ、ただし嫌な予感だけ。
少し下を見ればバロンがニコニコしながら私をじっと見ている。それにまだ手を握っている。やめろ、空いてるほうの手で私の手の甲を撫でるな。がっしりと握られているので振り払うことすら出来ない。本当に何だこいつ、気持ち悪い。その言葉しか出てこない。今の私の目は南極の氷のように冷たいだろう。

「バロン、俺の話聞いてないだろ。」

クロロが苦笑いをしながら言う。お願いクロロ、こいつをどうにかして。助け船を出してもらえるよう必死に見つめる。するとようやく伝わったのかクロロが、

「とりあえず、そいつについて詳しく紹介するからお前らとりあえず中に入ってくれ。」

口に手を当て肩を振るわせながらそう言った。クロロ、今、笑い堪えてるでしょ。…いい加減手を離せよ!そこの変態、見た目だけの男が気安く私に触れるな。こっち見るのやめろ。ニコニコすんな気持ち悪い。とりあえず私は奴を睨み続ける。だが、やっぱり効かないようだ。

「おい!二人とも、見つめあってないで早く来い。」

勘違いだ!と私が怒鳴るとクロロはふっと軽く笑ってアジト内へと戻って行った。
ようやく願いが通じたのかバロンという男は私の手を解放した。名残惜しいような視線をこちらに向けていたのは気のせいだということにしよう。

「では、行きましょうかマチ様。」

それは、今さっきまでのニコニコと効果音がつきそうな作り笑顔ではなかった。
温かく優しい、穏やかな笑顔だった。
私の殺気で凍りついていた周りの空気が一変して、柔らかく心地好いと感じる空気になった。彼が私の前に手を差し伸べる。

私は自分で言うのも癪だけど素直ではないから、厚意に甘えてその手をとるなんてのは出来ない。
その手を無視して中へと入ろうとする。彼はそんな私の素振りに傷ついた様子もなくどうぞ、とドアを開けてくれた。

「別にそこまでしなくていいのに。自分でドアくらい開けれるよ、あんた私をなめてんの?」

「いいえ、私はこれが仕事ですから。お気遣いなく。」

首を横に振ってそう言った。
お気遣いなくって気遣いなんかしてないっての。全く、クロロはとんでもない変人を団に招き入れたものだ。
私はバロンに聞こえるようにわざと大きくため息をついて中へと入った。


―これが私と彼の最初の出会い。ヒソカが入る六年前、幻影旅団を結成してからまだそんなに経っていない、桜の花が舞う春の日のことだった。



 

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