私とチョコとドアチャイム
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別に彼が好きだからチョコを渡したいというわけじゃない。ただ作りすぎてしまったから仕方なく渡すわけで、深い意味なんて別にない。

うん、別にない。

チョコレート会社の戦略にまんまとのった私は片手に綺麗にラッピングしてあるチョコを持って、ある男の家のドアの前で立ち尽くしていた。

ピンポンを押そうか、
押さないでこのまま帰ろうか、
かれこれ悩んで15分がたった。
さて、どうしようか…。

仕方ない…このまま帰るか。クルッと方向転換したその時、

ガチャッ

「おい、何をしている。さっさとピンポンを押さないか。」

中から見た目だけは良い美青年登場。
急いで片手にあった物を後ろに隠した。
と、いっても手を後ろに回しただけ。
見た目だけは良い美青年ことクロロは、今日はいつもと違って髪を下ろしているようだった。

「いえ、それが…。先に中に居られる方が出てきて下さったのでピンポン押せませんでした。」

「お前が立ち尽くしていた15分の間、チャンスは何回もあったはずだが?」

「う………。」

と、見事に図星を指された。
気づいているならドアを開けてくれても良かったのに…

「ドアを開けてあげても良かったんだが、つい権兵衛の反応が見たくてな。しばらく観察することにした。」

ニヤニヤしながら言うクロロ。お願いします。一発だけ殴らせて下さい。
あれ、そういえばそれより気になるワードが出てきたぞ?何だろうか、あ、観察?!って、ことは…

「ま、ま、まさか…見てたんですか?私の行動の一部始終を。」

「あぁ、勿論だ。」

サラリと言い放ったクロロ・ルシルフル26歳。え?今、そんな情報いらないって?ごめん、テンパってた。

「ずっとブツブツ言いながら、手にあった箱とチャイムを交互に見ていたな。なかなか面白かったぞ権兵衛の顔。」

「せめて表情の変わり具合と言って下さい。」

あぁ、恥ずかしい。
穴があるなら全力で入りたい…いや、私の場合は全力で埋まりたい。地上に、あなたにお目にかかることは二度とないでしょう。はあぁぁ…

「それで何の用事だ?」

この男、今日が何の日か分かって言っているのだろうか?もし、そうなら私のありったけの力を込めて殴りたいいや殴らせろ。
黙ってクロロのほうを睨む。

「目で訴えられても分からんぞ、言いたいことがあるなら口で言え。」

クロロの言う事は分かる。分かっているけど恥ずかしい。いや、大丈夫。恥ずかしくなんかない。だって作りすぎただけだし、チョコレート会社の戦略にのってみただけだから、別にそういう恋する女の子的な展開はな…

「用事がないならもう閉めるぞ。本がまだ読み終わってないからな。」

じゃっ、そう言ってあっさりとドアを閉められた。
…うううそおぉおおおぉぉおぉおお?!
予想外の出来事ばかり起きて器用ではない私は戸惑って上手く対処しきれない。とりあえず、どうしようか。なんとかして渡さないと、伝えないといけない。近いようで手の届かない場所にいる彼に、私の想い人である彼に。

今日は折角のバレンタインなのにと後ろに隠れていたチョコが恨めしそうに私を批難する。分かってる。きっとチャンスはこれで最後だ。私にもう少し勇気があったら…。何度も後悔してきた。手前にもどした箱を見る。私のありったけの想いを込めたチョコ、それを見ると自然と勇気が湧いてきた。

大丈夫、

ドアの傍に君臨するドアチャイムを見据え、震える指でそれを押す。

大丈夫。

今日はバレンタイン。
恋の魔法が人間にも使える日。
いつかあなたは馬鹿馬鹿しいと笑ったけれど、私はそうは思わない。
だってほら、

開かれたドアの向こうに優しく笑うあなたの姿があった。

「ハッピーバレンタイン…。」

この後のことは秘密にしておこう。



私とチョコとドアチャイム




 


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