挨拶
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「おい名無しの、ちょっと来い。」

『恋?』

「来なさい。」

ある日の放課後、馬鹿で有名な名無しの権兵衛は突然、担任の塚原から呼び出しを受けた。

『で、何でしょうか先生?』

「今回のテストの…おい待て。」

テストの話題が出たら逃げ出したいお年頃の名無しのさん。とりあえず後ろへ方向転換をしてスタートダッシュの時の姿勢になりました。

「テストの話題をした俺が悪かった。すまないな。」

『分かってくれれば良いんですよ。』

上から目線で物言いながら権兵衛は担任のほうへ向き直した。

「今日はテストの話じゃないんだ。」

担任の塚原が軽く後ろを振り返り、おい。と誰かを呼びかけた。すると職員室後方から一人の男性がゆっくりと二人のもとへと歩いてきた。

「紹介する。俺の大学時代の知り合いのクロロ・ルシルフルだ。」

『縁談ですか?』

「残念ながら全く違うからな。
クロロ、こいつがお前に話していた名無しの権兵衛だ。」

権兵衛の不満そうな顔を見なかったことにして塚原はクロロと呼ばれる男性にそう言った。

「ほぅ…この子が、」

クロロは何か考えながらまじまじと権兵衛を見つめる。それから優しげな微笑みを権兵衛に向けた。

「はじめまして、権兵衛さん。
俺は今日から君の家庭教師をすることになったクロロ・ルシルフルです。よろしく」

『あ、え?家庭教師?!!』

「・・・塚原から聞いてないのか?」

「あ、忘れてた。すまんすまん。」

『わ、私、家庭教師なんかいいです。自力で勉強頑張りますから。』

胸の前にもってきた両手に拳を作り頑張りますポーズをする権兵衛の姿を見て二人はため息をついた。

「残念ながら名無しの、今はそんなこと言っていられんのだ。」

『え?』

「今までの権兵衛さんの点数を見る限りでは自力での成績向上は無理そうだ。」

『え!?』

権兵衛の頭にたくさんのはてなマークが浮かぶ。

「権兵衛さんはかろうじて副教科はいいけれど、本教科がカスだな。」

『カ・・・カス・・・、』

「てなわけだ。名無しの、頑張ってくれ。」

それじゃあ、俺は帰るからなぁ〜と言って軽やかな足取りで塚原は職員室を出ていった。
今、職員室に残っているのは権兵衛とクロロの二人だけだ。
二人きりというのもあってか権兵衛は恥ずかしいような、緊張しているような面持ちでクロロを見上げた。権兵衛の視線に気づいたクロロは、まるで権兵衛を安心させるように優しげに微笑んだ。
しかし、次の一言によって権兵衛はクロロの本性を垣間見れることになる。

「校内一のバカの頭を徹底的に指導して普通の人並みの頭にしてくれ、とは塚原も偉くなったものだ。」

そこには少し前までの優しげな雰囲気はなく、冷たく鋭い重い雰囲気がクロロを纏っていた。

「見た目だけが取り柄のバカの頭を俺にどう改善しろというんだ。」

もしかしたら自分のことを言われているんじゃないかと薄々気づき始めたバ・・・いや、権兵衛は勇気を出してクロロに訊ねてみた。

『あの〜、そのバカって・・・一体、誰のこ「勿論、お前のことだが?」・・・ですよね、あはははは。』

即答だった。
まだ訊ね終わってもいないのに。
クロロは腕を組み、深く深くため息をついた後、仕方がないか・・・と呟き権兵衛のほうを向いた。

「権兵衛、いいか?仕方がないから今日から俺が指導してやる。ただし弱音は吐くな寝るな雑談をするな、面倒くさい。」

ゆっくりと幼稚園児に諭すように権兵衛に言ったクロロ。幼稚園児扱いされていると悟った権兵衛は少し複雑な顔をしている。

「期限は一週間だ。みっちりしごくから覚悟しておけ。」

そう言って今日は挨拶だけだからもう帰っていいと言ったクロロの言葉に甘えて権兵衛は学校を出ることにした。

幸い季節は夏だったので日が長く、7時といってもまだ明るかったので権兵衛は一人でいそいそと自宅へと帰っていった。

そういえば、あの家庭教師に受講料とか何やら払わないといけないのかな?
そんな疑問を持ちながら自転車のペダルをテンポよく漕いでいった。

またも塚原は連絡を忘れていたのである。家庭教師クロロには塚原が受講料等を払っているので権兵衛は払わなくてもいい、ということを・・・。

これから地獄の一週間が始まるということをこの時、権兵衛には分からなかった。

<つづく>



   


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