大事な友達が終わる時
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いつかは、あいつにきちんと自分の想いを伝えようと考えていた。こんなの、ただの言い訳にしかならないだろうけどさ。

窓から見える無駄に広い校庭の中心辺りにあいつ、つまり俺の想い人はいた。どうやら次の授業は体育らしい。紺のハーフパンツと白の少しブカブカのシャツがそう示していた。
一応、あいつと同じクラスだから体育の授業を俺も受けなければいけないんだけど、どうも気分がのらない。だからここであいつの姿を見ながらサボるという結論に至った。

あいつとは中々の腐れ縁で運が良いことに俺は中学からの同級生で、しかも四年間ずっと同じクラスだ。
勿論、それだけ長く一緒にいるのだから俺は他の男子より圧倒的にあいつと仲が良い。俺から話しかけたりするし、あいつから話しかけられたりもしていた。
面倒くさがり屋なあいつが自分から話しかけたりすることなんて滅多になかったし、男子に自分から話すことなんてないに等しかった。だからあいつの中での俺は特別な存在なんだと自信を持っていた。
だがしかし、あいつはめっちゃくちゃ鈍感で俺の数々のアタックを全て友達としての好意であると受け取っていたのだ。

それがこの間の放課後に判明した。
俺達二人は帰宅部で家もけっこう近かったからよく一緒に帰っていた。その時に俺は勇気を出して核心に迫る質問をあいつにしたんだ。

「あのさー、お前って俺のこと好き?」

俺の前を気だるげに歩いていた足がピタリと止まった。自然と俺の足も止まる。

『んー、そうだねぇ…。』

そう言って口元に手をあて深く考え始めた。あいつは次に何と俺に言うのだろうか、静かに息をのむ。
暫く俺達の間に沈黙の時が流れた。
うん、と一度大きく頷き満面の笑みである意味、俺が一番聞きたくなかった一言を言った。

『大好きだよ、だってキルアは私の中学からの"大事な友達"だもの!』

俺はその一言に対して何も言えなかった。
"大事な友達"は"恋人"にはなれない。
それはいくら鈍感なあいつでも分かっているはずだ。友達は恋愛対象外なんだ。
それから俺はその手の話題について触れるのは止めた。
想いを伝えようと無理にアタックをして自分の今の立場に気づかされて傷付くよりも、あいつの友達でいながらそっと想い続けていくことのほうがいいと思った。

みんなと一緒に楽しそうに笑うあいつの姿を見て俺も一緒に笑う。
あいつは人を笑顔にさせるのが得意だ。
どんなに心を閉ざしている奴でもあいつの手にかかれば数日で周りの奴らと打ち解け、笑いあえるようになる。俺もその一人だ。あいつのお陰で今の俺が、今の仲間がいると言っても過言じゃない。
中学の頃から何一つ変わってない。
明るくて無邪気でドジでバカで鈍感で…優しかった。いつもいつも笑ってた。
そんなあいつが好きだ。
もう、どうしようもないくらいに好きなんだ。
本当は一生言わないでおくつもりだったけど、あいつが他の男のものになるなんて心底嫌だから、たとえもう友達に戻れないとしても俺は後悔しない。あいつに長年の想いを告げることが出来るなら俺はそれでいい。

『なーにやってるんだよサボり常連者のキルア君。』

背後から急にあいつの声がした。
驚いて振り向くと 驚いたー?と、あいつが悪戯っぽく笑うあいつがいた。
どうやら俺が物思いにふけている間にどうやら教室に戻ってきたらしい。

「お前、授業はどうしたんだよ。」

本当はめっちゃビビったけど、驚いたと肯定するのが悔しかったから話題を変えることにした。

『校庭のどこ探してもキルアがいなかったから教室にいるかなー?って思って。』

自分のかは分からないけど、どっかから椅子を出して俺の隣にそう言いながら座る。

「ふーん、」

俺をわざわざ探しに来たのか?そんなこと怖くて訊けなかった。

『私も一緒にサボるよ。あと10分くらいで授業も終わるし怒られはしないでしょ。』

「アホかお前、あと10分くらいなら頑張って授業受けてろよ。」

それもそうだねぇ、と笑うあいつの頭を笑いながら小突く。何だかんだで俺の隣に来てくれるのが嬉しかった。

『ねぇ、キルア。今日は何の日でしょーう?』

「・・・・・・・は?」

いきなりの質問に戸惑う。今日が何の日?誕生日か?いや、こいつの誕生日でも俺の誕生日でもねーし・・・今日誕生日のやついたっけ?中々答えが出てこない。
俺が黙って考えていると待つのに飽きたのかあいつが頬を膨らませて言った。

『もう、キルア!答えるのが遅いよ。今日は私とキルアが出会った日だよ!』

・・・・・思い出した。
そういえば俺、この時期に転校してきたんだった。たしかこいつと同じクラスで隣の席だった。

『あの頃はキルアめっちゃツンツンしてたなぁ〜』

「うるせぇ。」

懐かしげに俺の若気の至り話をし始めたこいつの頭にげんこつをくらわす。全く力を入れていないのに痛いなぁ、とわざとらしく頭をさする素振りをしてこいつは、ヘラヘラと笑う。

「はいはい、痛いの痛いのとんでいけ〜」

今さっき俺が殴った権兵衛の頭をとりあえず適当に撫でてやる。
俺が頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を細める権兵衛を可愛いと思ったのは俺の心の中だけの話。

『でもたしか私、あの時からキルアのこと好きだったんだよねぇ〜』

「ふ〜ん・・・・・」

ほんの少しの間、沈黙が流れる。
いや、ちょっと待て。今こいつ何て言った?

"あの時からキルアのこと好きだったんだよねぇ〜"

はっ?それって恋愛対象として?それともまた"大事な友達"として?

聞きたい。

けど聞くのが怖い。もしもまた大事な友達だからだなんて言われたら俺はもう立ち直れなくなる。
もし、ここで俺が聞かなければこれで全て終わってしまうだろう。
せっかくのチャンスをここで無駄にして傷つくことを避けるか、勇気を出してこいつの本心を聞いて傷つくか、

選択肢は二つある。

俺は・・・俺は・・・・、


「俺さ、お前が好きなんだ。」


権兵衛に想いを伝えるという別の選択肢を選んだ。どれを選んでも傷つくはめになるのなら当たって砕けてしまえばいい。そう思った。


『・・・私も、好きだよ。』

「違ぇよ!お前の好きと俺の好きは違う。俺はお前を友達としてなんか見てなかったんだよ・・・。」

いつだって権兵衛は優しいから俺を傷つけないようなことを考えて言うんだ。
それが逆に俺を傷つけるとも知らないで・・・。

『私だって!キルアと同じ気持ちなんだよ!!』

「・・・・・は?」

じゃあ、あの時の言葉は何だったんだよ、頭の中でぐるぐるぐるぐる?マークが回っている。もう訳が分からない。

『だって私、もしもあの時、自分の素直な気持ちを伝えて、キルアに拒絶されたら』

『私、もう・・・・・』

あぁ、こいつも俺と同じだったんだ。傷つくのが怖くてずっと自分に嘘をついていた。
涙を流しながら必死に俺に気持ちを伝えてくれる権兵衛が愛しくてぎゅっと抱き締めた。

「俺、お前が好きだ。」

『うん。』

「初めて会った時からずっと、」

『私もだよ。』

「権兵衛、」

顔を上げた権兵衛に触れるだけのキスをする。

「愛してる。」

なんかドラマっぽいね、照れながらそう言って笑う権兵衛を強く抱き締め、もう一度キスをする。

授業の終わりを告げるチャイムが校舎に響きわたった。

大事な友達が終わる時


これからは権兵衛にとって大事な彼氏になる。




 

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