シルバーリングに君の名を
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彼が幻影旅団の団長とは知っている。

それを承知で五年半も彼と付き合っている。
勿論、団員さん達とも顔を合わせたことがある。いつのまにか団員のみんなと仲良くなって、彼より一緒にいることが多い気がする。
最近はパクやマチとよく話をしている。主に仕事ばかりでほとんど会えない彼への愚痴などだ。

仕事仕事仕事仕事休み仕事仕事…。
彼の一週間のほとんどが仕事で埋まっている。
仕事人間なのはまぁ、良いことなんだとは思う。けど、私という恋人の存在を忘れているのではないかと心配になる時がある。

約束とかあれば良いのに…、自然と左にある薬指を凝視してしまう。
私だって女だ、しかも二十代の。どうしてもそれを意識してしまうのである。

何があっても私は彼の物なのだ、そんな約束がほしい。
何があっても生きている限り私の傍にいる、そんな約束がほしい。

幸せな結婚式、結婚生活を想像する。しかし、それはやはりただの想像でしかなくて現実になることは決してない。
彼には戸籍がないのだ。と、いうか彼ら流星街の住人には戸籍というものがないのだ。
だから結婚届けなんか役所に出せるわけないし
(彼は戸籍を持っていないから)
私が彼のファミリーネームを名乗れるわけもない
(旅団関係者と知られて殺されてしまう)

それより心配になるのが彼が本当に私を愛してくれているのかということ。彼が私を愛してくれていなかったら、結婚というか一緒に居ることすら出来ない。

私は日頃そこまでマイナス思考ではないが、一ヶ月も愛しの彼と会ってないと愛されているという自信がなくなる。

「早く帰ってこないかな〜。」

少しだけでも良いから会いたいなぁ…、そんな言葉が自然に口から出てきた。自分でも驚くほど弱々しく寂しげな声色だった。

「そんな可愛いことを言われたら、すぐにでもお前を抱きたくなってしまうな。」

不意に後ろからずっと、ずっと聞きたかった愛しいあの人の声が聞こえた。どうか幻聴ではありませんように…そう願いながら後ろを振り返る。その先には憎たらしげに笑う愛しい人がいた。

「どうした?目を丸くして大口開けて…、そんなに驚いたのか?」

「…絶して近づいてくんな黒髪オールバック。」

「悪口じゃなく身体的特徴を言われても反応に困るな。」

「でこハゲ。」

「・・・・・・・。」

「いいたいいたいいたたた痛いっ!」

当たり前だ、痛くしてるからななんて言われても困る。本当に痛い!息が苦しいわ!
無言で、けれど笑顔で締め技をするのは酷いと思う、卑怯。
締め技からはようやく解放されたのだが痛みが…首とか腕とか、もう身体中がすごい痛い死ぬほど痛い筋肉痛重症版みたいな。

恨めしげに彼に目をやれば素知らぬ顔でソファーにどかっと座り、私が先ほどまで飲んでいたコーヒーを飲み干してくれていた。
自分でつげよ人のだろ何やってんだお前は、と私が憎々しげに言うとお前が飲んでなかったからコーヒーが可哀想に見えて、なーんて思ってもないような頓珍漢な答えを返してきた。
自分の隣をポンポンとまるで私を呼び寄せるかのように優しく叩く。犬じゃないんだぞ私は。それでも行って隣に座ってしまうのは惚れた弱みだろう。

「で、何しに来たの?」

テーブルの上に置いているテレビのリモコンに手を伸ばす。が、何とも言えない絶妙な位置にあって中々リモコンが取れない。

「用がなくてはいけないのか?」

私が苦戦していた位置にあるリモコンを軽々とその長い手で取り自慢気に私に笑った。イケメンだなんて思うな自分…お前は今、猛烈に馬鹿にされているんだ。

「べっっつに!ただ?今まで一ヶ月も家を空けていたのに急に来たから?さぞかし重要な用事でも?有られたのではないかと思って?」

すごい皮肉っぽく言った、というか皮肉だなこれ。人生の中で今、一番性格が歪んでること言ったわ私。
彼の片手にあるリモコンへ手を伸ばす。

「そんなに俺のことを想っていたわけだな。」

あともう少しで届きそうだったのに奴からのキスで伸ばしていた私の手は簡単に遮られてしまった。

「キスで誤魔化そうってわけ?」

真っ赤な顔をしてそう言う私は駄目だと思う。精一杯睨もうとするけど彼の顔を見るだけで愛しさが溢れてしまい、睨むことが出来ない。
彼は困ったように微笑みながら私の頭を撫でて言った。

「…寂しい想いをさせてすまなかった。」

私の額にキスを一つ落として、左ポケットから手のひらサイズの小さな箱を取り出した。
それは何なのか私が疑問を口にする前に彼は私が心から欲しかった言葉を口にした。

「たとえ俺がこんな風に仕事でなかなかお前に会えないとしても、」

彼の持っている箱をまじまじと見つめる。コールドブルーを基調とした生地に金色の紐が綺麗に箱を包んで結んでいる。
彼はまるで大切な物を扱う時のように丁寧に紐をほどき、箱を開いた。

「俺は変わらずお前だけを愛している。」

箱の中に入っていたのはシルバーリングだった。

「これからもお前だけを愛し続ける。だから、」

クロロは真っ直ぐと真剣な顔で静かに、けれど力強く言った。

「権兵衛、ずっと俺の傍にいてくれ。」

クロロは、シルバーリングを私の薬指にはめて軽く触れるだけのキスをした。
シルバーリングには権兵衛・ルシルフルという文字が彫ってあった。

余りの嬉しさに涙を流した。声が出なかったのでクロロの言葉への返答として私は何度も何度も頷くことしか出来なかった。

この涙がおさまったら伝えようと思う。ありったけの好きという気持ちを私が出来る最高の笑顔に込めて、

私も変わらずクロロを愛しています。

シルバーリングに君の名を
(永遠の愛を、誓います。)




 


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