愛しい君は遅刻魔
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「…あいつ、今日も遅刻かよ。」

左腕にしている時計に目をやる。
約束した待ち合わせ時間は午後1時、俺が着いたのはその5分後。
珍しく待ち合わせに俺は遅刻をしてしまった。が、上にはまだ上がいたようであいつはまだ来ていなかった。

人気のない閑静な住宅街の中にある小さな公園が今日の待ち合わせ場所。

「まぁ、まだ来るわけないよな。」

近くにあったベンチに腰かける。
俺の彼女であるあいつ、権兵衛は自他共に認める遅刻魔だ。約束した待ち合わせ時間を守った試しがない。
きっと今日もまた"ごめん、フィンクス〜!"と、へらへら誤魔化すように笑いながらやって来ることだろう。
あいつの遅刻理由には毎回呆れるが面白い。例えば…

「ごめん!フィンクス、時計を持ったウサギを追いかけてたら遅刻した。」

「メルヘンか!!」

「ごめんね、フィンクス…自分は無力な人間だと落ち込んでたら遅刻しちゃった。」

「いや、その前に行動的な人間になれよ。」

「ごめんフィンクス、道と言う道にバナナトラップがあって遅刻した!」

「あぁ、その割にはビックリするほど無傷だな。」

「ごめんね…フィンクス、スパゲティでどうやったら死ねるか考えてたら遅刻したんだ。」

「一つ聞きたい、お前の人生に何があったんだよ!?」

「スイマセーン☆寝坊しました☆てへ」

「あぁ!潔いいな!歯くいしばれ。」

…てな感じの理由ばかりだ。
奴がいかに馬鹿なのか分かっただろ?まぁ、そこが可愛いんだけどな。あいつには調子にのるから絶対こんなこと言わない。

時計を確認する。もう1時間も約束の時間から過ぎていた。携帯開いて着信履歴を見るがあいつからの連絡はなかった。急に不安になる。
確かにあいつは遅刻魔だが、それでも30分以内にはごめん、フィンクス〜!と、へらへら笑いながら着ていた。それに比べて今日は遅すぎる。もしかしたらあいつに何かあったのかもしれない…そう思うと暢気に座って待って居られなくなった。
立ち上がり開いたままだった携帯を操作し、まだ来ないあいつに電話をかける。

「ただいま留守にしております。ピーッと…」

出てきたのは、いつもの明るく能天気な俺の好きな声じゃなく機械音だった。

「くそ、あいつ何してんだよ!!!!」

苛立ちが増してくる。このままじっとあいつを待つことは出来ない。公園から出ていこうとしたその時、いつもの明るく能天気な俺が今、一番聞きたかった声が聴こえた。

「ごめん、フィンクス〜!」

笑顔で手を振りながら俺のもとへ来た権兵衛を思いっきり抱き締めた。

「え、え?フィンクス?」

腕の中で権兵衛が疑問の声をあげる。状況が今イチ掴めず頭の上にたくさんクエスチョンマークが飛んでいるようだ。
ぎゅう、とさっきより強く抱き締める。

「…心配したんだぞ馬鹿野郎。」

お前がいつもより一段と遅いから、小さくて情けない声だなと我ながら思った。
俺のその言葉を聞いて権兵衛が驚いた顔をして、それから申し訳なさそうに呟いた。

「ごめんね、フィンクス…。」

「謝らなくていい。お前が無事だって分かったからそれでいい。」

あの留守電の機械音を聞いた時、本当に何かあったと思ったんだ。こいつは何があっても絶対に俺の電話には出ていたから。
何だかんだで俺はやっぱりこいつのことが好きなんだと改めて確信する。

いつまでも大人しく俯いている権兵衛の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫で、俺はいつもこいつが遅刻した時に訊くことを言った。

「今日は何で遅刻したんだ?」

愛しい君は遅刻魔
(アイス食べすぎてお腹壊した。)
(お前、馬鹿だろ。)

遅刻魔を心配してはいけない。
遅刻魔は大体しょうもない理由で遅れてくるからね。



 


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