本日何度目かの告白劇
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最近、俺の近くに変な女がいる。

「シャルナークさん!私、シャルナークさんが好きです。付き合って下さい!」

…はい、来た。本日三度目の告白。
しかも同じ人からというね。

「あはは、ありがとう。」

最初は、せっかく勇気を出して告白してくれたのにそれを蔑ろにしてしまったら可哀想だと思って流さないように、傷付けないようにと必死に言葉を選んで断ったのに、こうも毎日同じ人物から告白を繰り返されるともう受け流すしか出来ない。

「で、君は誰だっけ?」

「そんなぁっ!?毎日毎日、名前を聞かれる度にフルネームで答えているというのに!!」

…いや、嘘だけどさ。人の名前くらい一度聞いただけで覚えられるよ。しかも同じクラスだし。俺、ウボーじゃないから。
彼女の名前は名無しの権兵衛。
俺と同じ学校に通っているただのクラスメイト。ちなみに、『ただの』この言葉すごく大事だからね。ただのクラスメイト。
何故か、彼女は俺に惚れてしまったらしい。俺の他にも何十人と男がこのクラスにいるというのに…。
まぁ、俺が顔良し頭良し、さらに運動も何でも出来る完璧な人だから惚れたんだと思うけどさ。惚れる理由は分かった。だけど、あんまり毎日毎日何度も告白するのはやめてほしい。いい加減ウザいんだけど、俺は優しいからマチみたいにハッキリ言えないんだよねー。本当にどうしようか。

「で、シャルナークさん!返事は?」

NOに決まってるだろこの馬鹿女。こんなことは言えない。俺、優しいから。

「あはは、ごめんね。何度も言ってるけど付き合うとかそういうの考えたことないから無理なんだ。」

本当に何度も言ってるよ。いい加減に気づいてくれよ。迷惑になってるってさ。

「そうですか…私、頑張ります!」

「じゃあ俺、移動教室だから…って、え?!!」

目まいがした。何を言ってるんだこの馬鹿女、いい加減諦めろよ!おかしいから、明らかにおかしいから。付き合うとか無理なんだよねとか言われて、フラれて一体何を頑張るんだよ!?こいつウボーと同じにおいがする。絶対、馬鹿だ。そうに決まってる。
ギャラリーがだんだん増えてきたし、とりあえず俺はその場から逃げた。敵に背中を見せるな、なんて誰か言ってたけどそんなこと知らない。俺は一刻も早くこの場から立ち去りたかったんだ…。
何度フラれても立ち直って何度も告白してくる、神経の図太い彼女のもとから。

「あ、待って下さーい!一緒に行きましょうよ、置いて行かないでー!シャルナークさーん!!!」

そんな声が後ろから聞こえたけど無視、無視!俺の名前を叫ばないでよ権兵衛さん。すれ違う人々にガン見されるから、本当に、顔から火が出そうなほど恥ずかしいからやめてくれ!
後ろから聞こえる声を振り切って俺は走り続けた。


それから時間が少し進み、昼休みになった。俺は学校の屋上でシズクとノブナガとパクとクロロの四人と昼食をとっていた。
クロロの担任の髪がだんだん薄くなってるとか、ウボーがまた赤点記録を更新したとか何気ない話で盛り上がっていたのに急にシズクが話を切り替えた。

「そういえば今日も告白されてたね。」

みんなが一斉に俺のほうを見る。うん、まぁ仕方ない。もう周知の事実だよね。あはは、笑うことしか出来ない。

「あれだけ告白されてるんだからもう付き合ってあげなよ。」

サンドイッチをもぐもぐ食べながらそう言われても…。そうだね、シズクはいつも我が道を行くマイペースだもんね。

「もう五十八回もされてるんだぞ。」

え、ちょっと待ってよクロロ。何で告白の回数とか数えちゃってんの?!!てか、あの子そんなに俺に告白してるのかよ…。ある意味尊敬するよ。

「かっかっか!モテる男は辛いねー。」

そう言って大笑いするノブナガの顔を全力で殴りたくなった。

「けど、何で付き合ってあげないの?権兵衛ちゃんだっけ?あの子、顔も整ってるし素直で一途な良い子じゃない。」

たしかにパクの言うことも分かるけど、あの子はそんなに顔は悪くない。むしろ良い方に入るだろう。けど、一途の方向性が少しおかしくない?

「あ、権兵衛ちゃん。」

「 げ、」

即座に後ろを振り向く。けど、どうやらそれはシズクの嘘だったようだ。

「シーズークー!」

「ごめんごめん、ちょっと言ってみたかっただけ。」

「けど、素早かった。あの子の名前を聞いた瞬間からのシャルの行動。弁当たたんで逃げる準備万端にしてから後ろ振り向いていた。」

「クロロ!そうやって逐一人の動向を観察したりしなくていいから、それを一々言わなくていいから。あと、ノブナガ!いい加減笑うのやめてくれない?ムカつくんだけど。」

「「「ごめん、面白くて。」」」

三人揃って同じことを言った。その一言でとうとう俺の堪忍袋の緒が切れた。

「あのね、初めはけっこう顔好みだから付き合ってあげてもいあかな〜?とか思ったけど女って付き合うと面倒臭いじゃん、経験上そう思ったの。だから断ったんだよ!なのに、何でだよ!何で毎日毎日何回も何回も告白してきてさ、いい加減ウザいんだよね。重い!俺、そういうの本当嫌なんだよね!!!!」

今まで溜めていた不満を全部吐き出した。スッキリするはずなのに何故かまだモヤモヤが残っていた。俺が言い切った後、誰も何も言わなかった。クロロ達は、驚いた顔をして俺を見ていた。いや、正しくは俺の後ろを見ていた。

「……権兵衛…ちゃん…。」

「パクもやめてくれよ!三人とも悪ふざけが過ぎる。いい加減にしてくれっ!て…え、」

そう言った後に後悔した。振り返ればそこには彼女が立っていた。いつから居たのかは分からない。けど、今の俺達の会話を、俺の拒絶の言葉を聞いたことは間違いなかった。

「あ………。」

何か話そうとしても言葉にならない。シンと静まりかえった冷たい空気がいつまでも俺達の周りを漂っている。誰も何も言わない、たぶん言えないんだと思う。
ノブナガは笑うのをやめた。クロロは彼女をずっと見ている。パクは俺を心配そうに見つめる。シズクは相変わらずサンドイッチをもぐもぐと食べ進めていた。そのマイペースさが羨ましい。彼女は…下を向いていた。彼女が今、どんな表情をしているのか読み取れない。たぶん俺は今生きている中で一番マヌケな面をしているんだろう。
心苦しい沈黙を破ったのは彼女だった。

「そんなシャルナークさんに嬉しいニュースです!」

顔を上げた彼女は笑っていた。それはそれは綺麗な笑顔だった。

「実はですね、シャルナークさん!」

意気揚々と俺達のもとへと駆けてくる。彼女は笑顔のまま、こう言った。

「私、転校するんです!明日から私の姿は見なくなりますから安心して下さい。」

…何も言えなかった。みんなが俺のほうを見る。何か言ってやれ、と訴えてるんだろう。だけど、俺はただ黙って彼女の言葉に耳を傾けるしか出来なかった。

「そこまで嫌われてるとは思いませんでした。ご迷惑おかけしてすみませんでした。今までありがとうございました!けど私、本当にシャルナークさんが好きです。大好きです。」

最後にもサラリと告白を混ぜてきた。さすが彼女だ。これで本日四回目の告白となる。クロロが今まで数えてきた回数と合わせると五十九回にもなる。
何故、彼女は俺にここまで好意を示してくれるのだろうか。
何故、彼女はあんな酷い拒絶の言葉を聞いたのに傷ついた様子もなく笑顔でいられるのだろうか。
俺には不思議でたまらない。

「それでは皆さん、さよなら!」

彼女は最後に一礼して、くるりと方向し中へと戻って行った。

「…追いかけなくていいのか?」

クロロが俺に問いかける。俺には無理だよ、クロロ。ここから一歩も歩けない。今まで女の子からの告白を傷つけないように断るのが俺の特技だった。けど、それは違った。俺は彼女を傷つけてしまった。

「あの子、終始笑顔だったね。」

すごいね、そう呟いて片付けを始めたシズク。

「シャル、お前さ、本当は…。」

「ノブナガ、もう終わったんだ。」

本当はあの拒絶の言葉は全部嘘だったんだ。クロロ達はそんなこと知ってた。彼女は知らないだろうけど、今まで俺が付き合っていた女の子達はみんな、他の女の子からのイジメを受けていたんだ。しかも俺がいない間に、陰湿で日に日にエスカレートしていく酷いイジメを。付き合っていた子達は始めは頑張っていたけど堪えきれなくなって、みんな俺から離れて行ったんだ。俺と別れた途端にそのイジメが終わるということが分かったから。

「シャルはそれで本当にいいの?」

パクが心配そうに見つめる。ありがとう、パク。良いんだよ、俺は。

「彼女まで酷い目にあうなんてなったら俺は堪えられないからね。イジメている奴等と傍観者決め込んでる奴等を全員殺しちゃいそう。」

そう言って、あははと軽く笑うとパクは悲しそうに笑った。

「素直になれば良かったのに…。」

ノブナガが不満気に呟く。

「生憎、俺はノブナガみたいに素直に気持ちを伝えるなんていう性格を持ち合わせていないんでね。」

「あいつも馬鹿な奴だと思うが、お前も馬鹿な奴だな。」

お互い様だな。クロロはそう言って、片付けた弁当片手に用事があるからと中へ戻って行った。

「お互い様、かぁ…。」

空を見上げる。どうやら今日は快晴らしい。雲が一つも見当たらず、ただ蒼が一面に広がっている。
権兵衛、どうか許してほしい。
本当は君を好きだったのに傷つけたくなくて君からの告白を断り続けていたことを。それと、俺自身の言葉で君を傷つけてしまったことを。守るって難しいんだね。今、初めて気づいたよ。

次の日から君はもう居なかった。
毎日のようにあった告白劇も、どうやら終演を迎えたらしい。
毎日のようにあった君の笑顔も、どうやら昨日が見納めだったようだ。
劇の最後は必ずしもハッピーエンドなわけじゃない。俺が、俺と彼女のハッピーエンドを自ら壊したんだ。

―本日何度目かの告白劇

どうやらこの告白劇はアンハッピーエンドのようです。


----------後書き------------

暗い、暗いよシャル…(´;ω;`)初登場で悲恋なんて可哀想だよ。いや私のせいなんだけどさ(笑)決めた!続編を作る、頑張るo(`^´*)ちゃんとハッピーエンドで終わらせたるわ◎続編作成、頑張ります。ころころ展開が変わる駄文で本当にすみません。読んで下さった皆様、ありがとうございました。



 


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