食べ物の怨みは深くて恐い
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「プリンがない。」

「…そう、です、ね。」

「プリンがない!」

「…そう、です、が?」

冷蔵庫の前で体操座りをし、不服そうに唇を尖らせて私を見る団長には、いつものような威厳はなくて、まるで小さな子どものように拗ねていた。

「プーリーンーー!!!!!」

「…ない、です、ねぇ。」

冷蔵庫の前を陣取っていた団長を蹴り飛ばし、ガザゴソと私は私の目的の品を取るために中を探った。

「プーリーン、プーリーンーー!!!!」

段々うるさくなってきた団長のほうをちらっと横目で見てみる。
…うわ、未だに体操座りをしてこちらを見ているよ。しかも、ゆらゆら体を揺らしながら。
全く…、泣く子も黙ると恐れられる幻影旅団が、しかもその団長がこんなんで良いのだろうか?
失礼だとは思うけどはっきり言うと五才児と同じレベルの拗ね方だから。幼稚園に行ってみたり、実際に幼稚園児くらいの子どもを持つと分かると思う、かなり大変だから。
とりあえず、そんな団長を無視して私はまた冷蔵庫の中へと視線を戻す。

「えっ〜と、えっと…。」

うーん、中々見つからないなぁ。どこへ置いたんだっけ?珍しく冷蔵庫の中に物が詰まっているので探しにくい。

「ねー、プリン。プリン食べたい。」

甘えたような猫なで声で言ってくる。
猫耳つけてやろうか?
想像してみると、とても可愛かったので地味に悔しかった。
女の私より可愛い仕草をする男って何?
こう考え事をしながらも手はちゃんと働いて目的の物を探している。
何か手元にそれらしき物が触れた。

「あっ、」

「え?プリン??プリン???」

うるせーよ、ハゲ。
あ、まだハゲてはなかったか…。
苦笑いをする。
だって、隣を見たら期待を含んだ目を輝かせて私を見る団長がいたから。
本当にプリンが好きなんだなと改めて知る。日頃はこんな子供らしい所は全くなくて、大人の色香を漂わてる威厳たっぷりのみんなの頼れる幻影旅団の団長だ。
たまにはこんな団長もいいかもしれないな。
そんなことを思ってしまう自分を笑う。

「えぇ、そうですよ。」

「本当?プリンあるの?!」

わーい、と今にも手を上げて喜び回りそうな団長に待ったをかける。

「ただし、あるのはプリンの…空、です。」

「………え?何だって?」

「ですから、私の手にあるのは既に空になってるプリンなんです。」

「何で空になった状態で冷蔵庫の中に入っているんだ?」

可愛らしく首を傾げて上目使いをして私に訊く団長、クロロ=ルシルフル。
今は、その姿に苛立ちをおぼえてしまう。

「団長、2日前の午後3時の行動をよく思い出して下さい。」

「2日前の午後3時?あぁ、プリンの時間だな。」

プリンの時間なんて訊いてねーよ、ハゲうぃる。
心の中で軽く悪態をつく。
ちなみに、ハゲにうぃるをつけたのは今はハゲてはいないけど、いつかはハゲるだろうからという私の予想によって付けられた。
ほら、だってほぼ毎日髪オールバックだし。

「その日、冷蔵庫の中に珍しくプリンが2つ入っていませんでしたか?」

「…あぁ!そういえば。」

なにやら色々分かって理解をしたご様子で、ふむふむと納得したように頷いている。

「そのプリン2つをどうしましたか?」

「食べたな。」

「食べたな。じゃねーよ!」

あ、大変。つい言葉を間違えてしまった。尊敬する団長に対してこんな言葉遣いをするなんて…いけないいけない。

「たしか、後から1つがお前のだとフィンクスから聞いて驚きながら冷蔵庫の中に戻した。」

「…空になったプリンを?」

「まぁ、そうだな。」

「…そうですか、悪いとは?」

「俺はそこにあったから食べただけだ。」

前言撤回。
もう今は敬語なんか使わない。
団長?何ソレ、美味しいの?

「開き直ってんじゃねぇよ!このくそが!!!!!!!」

「なっ…。団長に対してそんな言葉を使って良いのか?!」

「お前は自分の物を盗られた時、どうする?」

「おい、お前いつもとキャラ違うぞ。」

「いいから答えろ、ハゲ。」

「ハゲは止めろ、ハゲは。地味にいつか本当にハゲるんじゃないかと気にしてるから。」

団長はジリジリと後方へと下がっていく。正直、私は怒りで我を忘れているので団長の気にしてることなんてわりと本当にどうでもいい。

「いいから答えろよ。」

「笑顔のつもりなんだろうけど後ろで般若が恐い顔をして鎌を持っている姿が見えるぞ。さ、さ、殺気が隠しきれてない。まだまだだな。」

ゴッ、

団長の顔面を力一杯殴る。拳をつくってね。ぶべっと団長が言った気がするけど無視。

「余計なことは言わない。さぁ、早く答えなさい。」

「はい。
俺ならそうだなぁ…まぁ…………、
殺す、かな?」

どっかのアニメのキラッ☆っていうポーズを真似て言った団長。お前こそキャラちげーよ。
でも、団長の言葉を聞いて安心した。
これで心置き無く…

「心置き無く団長を殺せますよ。」

片手に団長愛用のベンズナイフ数本、さっき盗ってきた物である。

「んなっ!!!!!
ちょっと待て!悪かった、悪かったから、」

「殺す、ころす、コロス…」

「ひぎゃぁああぁぁぁあぁあぁああぁぁあぁあああっっっ!!!!!!!!!」

団長の悲鳴がアジトに響き渡った。
その悲鳴を聞いて団員達は慌てふためいて私を宥めていたが、そんな声は届くはずがなかった…。


―食べ物の怨みは深くて恐い。




 


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