にねん | ナノ



赤司っちとの間に、甘い関係など存在しない。
一緒に帰るし、人がいなければ手も繋ぐ。キスもするし、どちらかの家に行けばそれ以上のこともする。
だけどそこにあるのは、行為という事実だけ。愛だの恋だの、そんなものはどこにもない。
…いや、正確にはある。ただ、一方通行なだけの想いが。
告白したのは俺だった。…好きなのも、俺だけだ。

赤司っちにはたくさんの顔がある。
帝光中バスケ部主将で、名門赤司家の一人息子、赤司征十郎。
そして、その中で、…“黄瀬涼太の恋人”としての顔の優先順位はいちばん下。
だって赤司っちは、俺を愛してなどいないのだから。
どうして告白に頷いてくれたのかわからないけれど、それだけはわかってる。
その証拠に、彼は一度も俺に愛してると言わない。
俺を抱く仕草は酷く優しいのに、俺の欲しい言葉は決してくれない。
他の部員に向けるのと同じ、穏やかな顔しか向けてくれない。
そして…彼は決して、俺の隣で朝を迎えてはくれない。
だから今日も、俺はひとりぼっちで目を覚ます。
わかっていることなのに、愛されたがりの愚かな俺は、また自分勝手な期待を裏切られ、涙を流すのだ。
…ダメだ、ちゃんとしなくちゃ。
今日も赤司っちが来てくれる日だ。
大会前で、オフまで取材やらなんやらで忙しいのに、二日連続で来てくれるなんて。
たとえ夕方からでも。朝にはもういなくても。
自分で赤司っちを選んだ俺は、それで満足しなきゃダメなんだ。
時計を見る。昨日聞いていた到着時刻まではまだ長い。
もう一眠りしようと目を閉じても、浮かんでくるのは赤司っちのことばかりだ。
幻聴まで聞こえてきた。鍵がまわる音。…本当に、今すぐそれが鳴って、唯一の合鍵の持ち主が来てくれたらいいのに。
大好きな人が、自分の存在を認識してくれてる。それだけで十分幸せなはずなのに、俺はわがままだから。
だから、それ以上を願ってしまう。
「……赤司っち…愛して…」
お願い俺を、俺だけを見て。
意識を失う直前、慌てたような足音を聞いた、気がした。

夢を、見た。
電気をつけていない俺の部屋は真っ暗で、でもそこにいるのが誰なのかは、簡単にわかった。
「涼太」
優しく優しく、彼が俺を呼ぶ。
「愛しているよ」
あぁ、夢だ。続いた言葉で確信する。
だって、彼が俺にそう言ったことは今までに一度もないし、これからだってきっとない。
だからこれは幻。俺の妄想だ。
でも、…それでもいい。嘘でもいいから、どうかその声でそう囁いて欲しいと。
結局、赤司っちには一度も告げたことはない、俺の浅はかな願望だから。
「…僕はね、涼太。お前を唯一にすることも、何よりも優先することも、この先もきっとできない。…でも、僕の一番はずっと涼太だから」
そう言って、彼はそのまま俺を優しく抱きしめる。
その腕が温かいから、俺はもう、何もいらない。
だって嘘でも、幻でも。俺は赤司っちの言葉は全部信じる。
「…ありがと、赤司っち。…愛してる」
誰よりも何よりも、一番大好きな人だから。
きっとこれからも、本当の赤司っちは俺を愛してくれないだろうけど。
でも、この言葉で。俺は、また笑える。

翌朝。目を覚ました俺が、隣で眠る赤司っちを見つけたときは。
それ以上に嬉しくて、泣きながら抱きついて起こしてしまったけれど。

嘘でも幻でも構わないよ
(だけど、本当なら、それはどんなに)

20130717

これにてお題埋まったです!
赤←黄にみせかけた赤→→←黄くらいなのが好きなのです。
お付き合いありがとうございました!



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