![]() 小さい頃、俺はひどく夢見がちなこどもだった。 容姿や能力のおかげか、周囲は俺をとても甘やかし愛してくれた。 それが俺にとっての当然で、ずっと続いていくもの。 だから大きくなったら、どこからともなく可愛いお姫様が現れて、愛し合って幸せに暮らすんだって。 そんな、御伽噺みたいな幼稚な理想を描いていた。 目を覚ますと、一人で寝るには少々広すぎる俺のベッドの上には、自分とは違う温もりがあった。 昨日は背を向けあって眠りについたはずなのに、腰に緩く腕が巻きついている。 まだ朝も早く、彼が起きる気配はない。だから、力の入っていない腕の中では簡単に動くことができる。 起こさないように静かに寝返りを打って、そちらを向く。 喧嘩をした後の夜はいつもそうであるように、眉間に皺を寄せたまま眠る顔。 それを見たら、愛しさがどうしようもなくこみ上げてきて。 こっそり、額にキスをする。 彼自身から聞いたことは一度もないけれど、喧嘩するといつもこうやって気にしてることが一目瞭然の顔をするから。 …だから、ずるい。 幼い日から時は流れ、大人になった俺の隣にいるのは緑間っちだ。 あの頃描いた理想とは、正反対といえるくらいにかけ離れている。 気難しくてツンデレで、不思議でマイペースで、料理も下手。そもそも俺より身長の高い男だ。 性格が合わないからしょっちゅう喧嘩するし、彼は決して謝らないからいつも俺から折れることになる。 愛情も、言葉や態度で素直にくれるわけじゃないから、信じきれなくて迷って泣いた回数なんて数え切れない。 こどもの俺なら、とっくに放り出していただろう。何でも与えられ、気に入らないものは切り捨てていたあの頃なら。 …でも、今は。 「……ん、黄瀬…?」 「おはよ、緑間っち」 御伽噺には程遠いこの空間が、今の俺には心地いい。 理想通りじゃないけれど (想像していたよりも、ずっと幸せだ) 20130707 てなわけで二周年。第一段は緑間っちです。 べべべ別に誕生日をこれでごまかそうとか思ってませんけど! なんか受けくさい緑間さんですが。 ![]() |