おーふりゆめ | ナノ

彼が眼鏡を嫌いな理由


眼鏡を取ってくるのを忘れた。

ほとんど恒例といえる、週末の高瀬家と桜井家の合同食事会。
今日の会場である高瀬家についたとき、私はそれに気付いた。
本好きが祟ったのか、私の視力は小学生時代から悪い。
普段は眼鏡を愛用しているけど、この眼鏡、準太からの評判がすこぶる悪いのだ。
恋人になる前も、なってからも、似合わないとかダサいとか言いたい放題で、だから準太と会うときだけはコンタクトにしていたのだけど。
最近、部活が忙しい準太と会うことは少なくて、だから忘れていた。

「おい夏葉、なんで今日眼鏡なんだよ」
リビングで弟くんとゲームしていた準太は、こちらを見るなり不機嫌そうに言った。
仮にも彼女、しかも久しぶりに会ったのに第一声がそれってどうなの。
「今日、コンタクト忘れちゃって。たまにはいいでしょ?」
「似合わねぇ」
バッサリ。
準太は不機嫌なままテレビへと視線を戻してしまい、私はひとり、こっそり落ち込んだ。

ご飯を終えて、両親たちと弟くんは下で団らん中。
その間もずっと不機嫌だった彼は、疲れた寝る、と言って私を引っ張って部屋へと早々に戻ってきたのだ。
「…眼鏡取れよ」
部屋についた途端、こちらに向き直った準太に眼鏡を奪われた。
ぼやける視界。この広くない準太の部屋さえよく見えない。
「…なんでそんなに眼鏡嫌なの?そんなに似合わない?」
すぐ前に立つ準太のことすらよく見えなくて、泣きそうになりながら言えば。
「…それもあるけど。……から」
「え?」
「だから、夏葉の顔、隠されるだろ…!」
私の顔が隠される、だから嫌。
少しして意味を理解した瞬間、私の顔は真っ赤に染まった。
だって。それって、つまりは。
その拍子に。ぽろりと涙がこぼれて、反射的に目を閉じれば。
唇に、慣れた感触。

…あぁ、やっぱり今度から忘れずにコンタクトにしなくちゃ。
「…それに、キスもしにくいしな」
すぐ傍でいたずらっぽく笑う、その表情も。
「そうだね、今度からコンタクト忘れない。…準太の顔、見えないもん」
途端に真っ赤になって、離れていくそれも。
ひとつだって見逃したくない。全部私のものだから。

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