届かないことは知ってる ※黄←主←黒 です 当時、隣のクラスだった彼女のことは、中学一年生の時から知っている。 『黄瀬涼太の幼なじみ』という肩書きで、彼女はとても有名だった。 彼女の可愛らしい顔立ちや、走るのがとても速いこと。それらよりも圧倒的に、彼女の傍にいる彼は大きかった。 上がったばかりの一軍の仲間たちは興味なさそうだったけど、活動を始めてすぐに人気モデルに成り上がった彼のことを、僕は人並みに知っていた。 だけど、他と違うのは。僕は彼を通して彼女を知ったのではなく、逆であること。 『傘ないの?一緒に入ろうか』 きっと、彼女は覚えていないだろう。 だけど、僕はその瞬間から、彼女から目を離せなくなった。 二年のとき、二人はバスケ部に入ってきた。 瞬く間に一軍に上がった彼と違い、彼女は三年生になるまで空きのあった二軍のマネージャーを務めていた。 それでも、気付けば当たり前のように、二人は隣にいた。 二人が付き合ってるのだと思っている人間は、果たして校内にどれだけいたのだろう。部内にもかなり多かった。 たぶん、僕だけが気付いていた。黄瀬君と大沢さんが恋人になることは、きっとありえないと。 お互いを見る視線に、明らかな差があるから。 季節は巡り、僕たちは中学を卒業した。 その頃にはバスケ部と疎遠になっていたけど、黙っていても情報は入ってくる。 二人は海常高校に進学するらしい。当たり前みたいに一緒に。 それが悔しいと、思うほどに。 気付けば僕は、彼女が好きだった。 「あ!黒子っちー」 「テツヤくん!」 今日も、二人は当たり前のように隣にいる。 時々交わされる視線の意味に、明らかな温度差があることに気付いているのは、きっと二人と僕だけだ。 たぶん、黄瀬君は大沢さんの気持ちを知っていて、それを大沢さんも分かっている。 種類の違う想いは繋がらない。それを知って、それでも二人は隣にいる。 目が合った。 僕だけに見えるように、大沢さんが微笑む。 とても、悲しそうに。 彼女は知っているのだ。届くことはないことを。 そして、僕も同じに。この気持ちが決して届くことがないと知っていて、それを抱えたままここから彼女を見ている。 |