くろばすゆめ | ナノ

生まれ変わったら


生まれ変わったら何になりたい?
友達と話していて、いつの間にか話題はそんなもしも話になっていた。
モデルのなになにちゃんとか、お金持ちとか、猫とか、ありきたりな答えを口々に言っていくみんな。
「あたしは黄瀬くんかなー」
「えっ?」
「だってかっこいいしバスケ上手いし、一回体験してみたい!」
思わず心臓が跳ねる名前も、きっとありきたりな答えのひとつ。
りょーくんは学校のアイドルで、人気モデル。キセキの世代なんて呼ばれてて、バスケ界でも有名人。
「あー、あたし六花でもいいなー」
「わかる!六花、黄瀬くんの幼なじみだしー」
「…で、六花は?」
「…え?あたし?あたしは…」
そのタイミングでチャイムが鳴って、休み時間の終わりが告げられる。みんなは席に戻っていく。
答えを考えていなかったあたしは、少しだけほっとした。

生まれ変わったら。その質問は放課後まで、頭をぐるぐる回り続けた。
おかげでノートは真っ白、授業内容も全然覚えていない。
三日後に迫ったテストも爆死決定だ。
憂鬱な気分でため息をつき、荷物をまとめていたら。
「六花っちー、帰るっスよー」
小学校からずっと一緒だったクラスがついに分かれ、隣のクラスになってしまった幼なじみ。
りょーくんが、入口からあたしの名前を呼んだ。

並んで歩く帰り道。あたしより五十センチ近く背が高いりょーくんは、いつもあたしに歩幅を合わせてくれる。
嬉しい反面、少し不満だったり。りょーくんというより、この身長が不満なんだけど。
「どうしたの?今日、元気ないっスね」
「ん?あっ、ごめんね!」
「なんかあった?」
「…ね、りょーくんさ。生まれ変わったら何になりたい?」
「いきなりなんスか?」
「友達と話してて、そんな話題になってさ。ちょっと悩んでたの」
そう言うと、りょーくんは少し考え込むような顔をした。そんな表情すらさまになってしまう。
「そっスねぇ…やっぱり青峰っち?あのバスケはすごいっスよ。赤司っちも頭いいし羨ましいなぁ」
すらすらと出る名前は、どれもよく聞き慣れたもの。
中学時代のチームメイトたち。
…あたしも少し、彼らに憧れる。
あの中に、あたしも入れたらって。
大輝くんに1on1で挑んだり、みんなで試合に出たり。
あたしにはできないことだから。
「…でも、やっぱりまた俺がいいっス」
「え?イケメンだから?」
「それもあるっスけど…」
いつの間にか、人気のない公園にたどり着いていた。帰り道の途中のいつもの場所。
そこで一旦立ち止まり、りょーくんはあたしにキスをする。
「こんなふうに六花っちといられるの、俺だけっスもん」

…あたしもやっぱりこのままで。大沢六花のままがいい。
みんなと同じコートには立てないし、バスケだって苦手だけど、でも。
帝光中学出身で、りょーくんの幼なじみ。
そして、学校では内緒の恋人。
そんなあたしという人間は、充分すぎるほど幸せだから。

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