小説2 | ナノ


(ハルカ様へ/赤黄)
※赤司様のお家事情を捏造してます

洛山高校の卒業式を、明日に控えたこの日。
「…涼太、そろそろ…」
「嫌っス、」
…僕は、困っていた。
部活は当然とっくに引退済みだし、登校日も週に一度ほど。だから僕は昨日から、神奈川にある涼太のマンションに来ていた。
今日は海常高校の卒業式だった。さすがに中に入ることは叶わなかったが、最後の制服姿の涼太を散々目に焼き付けることはできた。
その後帰ってきて、ふたりで料理を作って食べて、することもして。
でも、今日は泊まるわけにはいかない。終電で帰るからと、事前にそう言ってあった。
…それなのに、順番にシャワーを使い、先に出た僕が髪を乾かし終えたあたりで、バスルームから出てきた涼太に、包み込むように抱き締められたのだ。
最初は時間に余裕もあったし、少しこうしていれば満足するだろうと思ってそのままでいた。涼太は存外、寂しがり屋なところがあるから。
…予想に反して、しばらく経ってもそのままで。
終電の時間も迫っている中、僕はほとほと困り果てていた。

「…涼太、」
「……嫌だ、行かないで赤司っち」
弱々しい声、対照的に強い意志を持った腕。
俯いているせいで顔は見えないが、きっと泣いてしまうのを必死に堪えている。
…そんな涼太は、恋人の贔屓目を抜きにしてもやはり可愛い。
……しかし、理由もわからないから困るのだ。
風呂に入る前までは、すごく楽しそうだったのに。
もしかして具合でも悪いのかと心配したが、どうやらそうではないようだし。
「…涼太」
「……だって、赤司っち、」
アメリカ、いっちゃう。
その言葉と共に、ついに泣き出してしまったようだ。
…ようやく合点がいき、僕は涼太の頭をそっと撫でた。

高校卒業後、アメリカの大学に通いながら、そちらにある赤司グループ本社の経営を学ぶ。
高校までバスケを続ける代わりに、父から提示された条件はそれだった。
当時大切な物はそれだけだった僕は、一も二もなくその条件を呑んだ。
…だけど今は、涼太がいる。進路を決める段階になって、今更僕は悩み、迷っていた。
『お父さんとの約束、守らなきゃダメっスよ』
そんな僕の背中を押したのは、涼太自身だった。
『電話もメールもあるし、ずっと会えないわけじゃない』
そう笑って言う、涼太の瞳は揺れていた。
…確かに会えないわけじゃないし、五年で日本に帰れる約束だ。
それでも、今までとは桁が違う距離が開くことは、僕も涼太も嫌なくらいわかっていた。
それでも、涼太は泣かなかった。
…今の今まで、泣かなかった。

「…ごめ、こんな…ワガママ、スね」
「いいんだ、聞かせて」
「……ホントは、行って欲しくないけど、それはもう、納得して、応援もしてる。…でも、せめて、」
今だけは一緒にいて、と縋るような手が僕の髪に触れる。
今夜別れたら、きっともう発つ日まで会えない。涼太も大学入学のために準備が必要だし、僕も諸々の手続きがある。だから、最後だから、もう少しだけ。
そんな言い訳をしてみて、それが無意味だと気付く。
…だって、本当の気持ちは。僕も涼太と同じところにある。
寂しいから、一緒にいたいから。それだけで、十分すぎるほど。

「…わかった。今夜は、一緒にいよう」
卒業式は午後からだ。ギリギリになってしまうが、間に合わないことはないだろう。
これから訪れるしばしの別れを前に。今夜は、隣で眠ろう。
「…涼太。とりあえず、顔を上げて」
まずは可愛らしい嗚咽を漏らす恋人の涙を拭うため、耳元でそう囁いた。

せめて今だけは隣に
(寂しさを少しだけ埋めるための夜を)

20130905

ハルカ様に大変お待たせした赤黄を献上いたします。
え?黄赤?違いますよ赤黄です。
赤黄はうさぎさんなふたりを推奨してます。
…謎の捏造がてんこ盛られてて申し訳ないです。大企業=アメリカのイメージが私内で膨らみすぎている。



[back]