小説2 | ナノ


(悠葵様へ/青黄/これの続き)

透明なビニール傘の内側に、雨が降る。
これは雨だ。泣いてなんかいない。だって初めからわかってたことだから。
どれだけ青峰っちに近づこうと頑張ったって、俺はどうしようもなく男で。
マイちゃんにも、桃っちにも、ピンクの傘のあの子にもなれやしない。
青峰っちは優しいから、きっと俺が望む限り、俺のそばにいてくれるんだろう。
手放すのが愛だって、俺にだってわかってる。
…でも無理だ。俺にはできない。
青峰っちが選んだのは俺だって。隣にいるのは俺だって。
都合の悪いこと全部に目をつぶった、歪でみっともない優越感に縋り続けることでしか、きっともう俺は生きていけない。
だからそのときは、青峰っちから言って欲しいって。離れて欲しいって。
優しい彼を傷つけるであろう、最低な結末を望む。
そのくせ、あの子と並んでいる姿を見ただけで、気が狂いそうになる。
自分勝手なことだ。自嘲してみても、やっぱり視界はぼやけ続ける。

「黄瀬」
突然、傘の中に誰かが入ってくるのを感じた。
…いや、それを認識すると同時に、誰であるかも理解する。
この身長、この匂い、この温度、この声。…俺が彼を、間違うわけないから。
「お前、なに泣いてんの」
そのまま、柔らかく抱き締められる。
それはとても温かくて、嬉しいけれど。でも。
「…青峰っち、」
そっと胸を押す。…だって、こんな雨が降る傘の中。
…青峰っちまで、濡れてしまう。

それに対して返ってきたのは、言葉ではなく唇だった。
「んっ、…ふぁ…」
甘い吐息に溶かされる。
不良品のビニール傘が手から転げ落ちたけれど、そんなものを思考に入れる余裕はもうなかった。
青峰っちのキスは決して上手くはないけれど、何よりも俺を溺れさせる。

「…別に不安になるのはいいけど、そういうのは俺に言えよな」
キスが終わり、倒れそうになる俺を支えながら、青峰っちは囁くように言う。
…やっぱり、彼には全部お見通しみたいだ。
我ながら、情けない話だけど。彼の前では、俺は何も隠せなくなる。
「…で、何があったんだよ?」
そう、聞かれれば。口が勝手に答えてしまう。
「……ったく、くだんねぇこと思いやがって」
それを告げれば、今度は頭をわしゃわしゃと撫でられた。
「俺はお前が一番だぜ、いい加減わかれよな」
な、涼太?
普段は呼ばれない名前を呼ばれ、そうしてもう一度、優しく唇が落ちてくる。

雨は、いつの間にか止んでいた。


(彼が俺の太陽だから)

20130904

悠葵様、お待たせいたしました!
黄瀬君を無駄にネガらせてしまった…。
ていうか往来ですよね…



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