小説2 | ナノ


(かな吉様へ/赤黄←灰)


洛山高校一年、赤司征十郎。
かつては『キセキの世代』を束ねる主将であり、現在は無冠の五将三人を擁する洛山高校のキャプテンを一年生ながら務めている。
彼は、あらゆる勝負において敗北を知らないことで有名だった。
…しかし、そんな彼とて、苦難さえも知らないというわけではない。
キセキの世代や洛山バスケ部の部員達は、彼が頭を抱える姿を何度も見ている。
…そして、彼らは同時に知っている。
その苦悩の大半は、彼の恋人である黄瀬涼太が原因となっていることを。

「ショーゴ君ー」
目の前の光景に、僕はしばし絶句する。
久しぶりに、後輩達の指導も兼ねて帝光中に集まった今日、涼太が疲れた様子だったのには気付いていた。
…だけどまさか、少し目を離した隙にこうなるとは。天帝の眼でも予測不能だ。
ベンチの真ん中に腰かける灰崎。その膝に、向かい合うように座って、あまつさえ胸に頭をぐりぐりする涼太。
…うん、眼福だ。その場所にいるのが僕なら。繰り返す。そこにいるのが、恋人の、僕なら、だ。
まぁ僕が涼太の体重を支えられるかとか、胸にぐりぐりするのは涼太が頑張って首を曲げないといけないとか、…うん、とりあえず灰崎、頭が高いぞ。
「…何をしているんだ灰崎」
「怒んなよ赤司。リョータが座ってたベンチ奪ったら、拗ねて乗ってきたんだぜ」
そう言ってるが、ニヤケ顔を隠し切れていないぞ灰崎。お前が涼太に惚れてることくらい、涼太以外みんな知ってるからな。
帝光時代ならとりあえず基礎練を50倍にしていたところだ。命拾いしたな。
「ショーゴくーん…俺眠いっスー…」
…大体その呼び方からして気にくわない。僕のことは未だに“赤司っち”のくせに。
いや、もちろん“っち”が尊敬の証であることも知っているし、それがついていない灰崎を涼太が下に見ているのは明らかなのだが、それはそれ。
だってかつての仲間はもちろんのこと、今では火神や高尾なんかもそう呼んでいる。全然特別じゃない。
それが不満で、“征ちゃん”と呼んでと頼んでいるのだが、その願いが聞き入れられる気配はない。
見かねた玲央がそう呼んでくれているが、欲しいのは同情じゃない。
「愛なんだよ…!」
ベンチに座り、さらりと髪をひと撫ですると、灰崎の胸に押しつけられていた頭がこっちを見た。
ふにゃり、と元々緩んでいた顔がさらに崩れる。この笑顔は、僕だけに向けてくれるそれだ。
「…あかしっちー…」
「ほら涼太、一度立って。僕に寄りかかって休んでいいから」
支えて立たせつつ、アンクルブレイクを応用して灰崎をベンチから落とす。
抗議の声を無視して、すり寄ってくる涼太を抱きしめた。
そのまま灰崎を見る。…僕の顔は、きっと笑っている。
「…灰崎」
想うだけなら構わない。涼太は可愛いからね。
でも、忘れさせてなどやらない。…涼太は、とっくに僕のものだってこと。

気付けば、涼太は眠ってしまったらしい。
どれだけ疲れていても、彼は僕以外の傍では眠らない。
涼太は人懐っこくて、スキンシップ過多で、だから今回のように思うことも少なくはない。
だけど、そんな僕だけの涼太を見て、こうして抱きしめて。
それだけで僕はもう、どんなことがあっても涼太を手放さないと誓えるのだ。

司征十郎の
(渡すつもりはないけどね)

20130816

かな吉様へ。お待たせしました。
ギャ…グ…?
私は鈍感な受けを推奨してるので、灰崎君の純情な感情は三分の一どころか1%も伝わらないと嬉しい。



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