小説2 | ナノ


(縷那様へ/青黄)

地球温暖化、なんて叫ばれているだけあり、今年の夏も暑い。
いくら帝光中バスケ部の一軍が使っている第一体育館が空調完備とはいえ、練習中それをつけることは滅多にない上、つけていても運動するのであまり意味がない。
二年目である他の二年レギュラーは慣れたものだが、今年から入部した黄瀬涼太は、夏休みが早く終わって欲しくてたまらなかった。
「ふぇー…外暑かったっスー…」
「うるせぇ。そもそもお前、去年も運動部だったんだろ?運動部荒らし」
「去年はハンドボール部で外だったし、そもそも仕事で日焼けNGだったから夏休みの練習ほとんど出てないんスよー…」
お前なんでハンドボール部に入ったんだ、とツッコミを入れるものは誰もいない。
なにしろ、他の部員は練習中。日陰になっていて涼しい部室にいるのは、青峰と黄瀬のふたりだけなのだから。

断っておくがサボリではない。
赤司が主将になった今、サボったりすれば五体満足ではいられないだろう。いや、前主将の虹村でも困難だが。
そもそも、ふたりともバスケは大好きだ。それこそ、練習では足りないくらいに。
つまりこれは赤司の指示、という名の命令。
「しかし恥ずかしいなお前、夏バテとか」
「うっさいっス!」
すっかり暑さにあてられ体調を崩した黄瀬に、付き添うために青峰はここにいる。

黄瀬は暑さに弱いらしい。
暑くなるにつれだんだん元気がなくなり、食欲がないらしく昼飯の量も減っていって。
そんな状態で、学校のある日よりも増える夏休み用メニューをこなすのにはやはり無理があって。
今朝から頭痛を訴えふらふらする黄瀬を見かね、昼休みについに赤司が休んでいるようにと言ったのだった。
ひとりにしておくわけにもいかず、じゃんけんで決めた結果、青峰がふらつく黄瀬を支えてここまで来たのが、今から一時間ほど前になる。
「つーか飯食えよ。ゼリーばっかり食ってるからこうなんだよ」
「青峰っちと違って俺、繊細なんスよ」
頭をはたいておく。まだ顔色はよくないが、これだけ無駄口を叩けるなら問題ないだろう。
ここは涼しいからあまり扇いでやれば逆に冷えて風邪を引いてしまうし、ぶっちゃけすることがない。
「…ごめん、青峰っち。せっかくの練習時間なのに」
しかも、具合が悪いせいか無駄にしおらしいのであまりからかうのも気が引けて、青峰は黙り込むしかない。
…まったく、ずるいと思う。

「青峰っち、ねぇ」
「…なんだよ」
「喉渇いた」
ミネラルウォーターのペットボトルを渡すと、いやいやと首を振られた。
「口移しがいい」
「…頭か?頭やられたのか?」
「失礼っスね!…ね、ダメ?」
熱がこもって少し潤んだ瞳に、きっとやられたせい。
そう結論づけることにして、青峰は透明な液体を口に含んだ。
そうして、その柔らかい唇に、自らのそれを重ねる。
世界が、ふたりだけになったような。そんな感覚を覚えた。

「…ありがと、青峰っち」
「……ったく。今度1on1するときボコボコにしてやるからな。…だから早く元気になれ」
彼は、気付いているのだろうか。
一見怒っているようだが、その言葉には次への約束と気遣いしか含まれていないことを。
黒いせいでわかりにくいがわずかに染まった頬を隠すように背を向け、トイレ行ってくる、と部室を出て行く彼を。
黄瀬はそっと、微笑んで見つめた。

夏は、好きじゃなかった。
だけど、彼がいる夏は、悪くない。


summer time
(きみとふたりなら)

20130502

縷那様に捧げます!
季節感がログアウトしましたー!去年の夏に頂いたリクエストなんだもの。さ、先取り(小声)
キセ黄or青黄ということで、青黄を選ばせていただきました。キャラが多いとグダるので。
+っぽいにおいがしたので急遽口移しを取り入れたのですがなんか…微妙。
さ、三人称難しいよー…



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