小説2 | ナノ


(ちな様へ/青寄りキセ黄♀)

※黄瀬ちゃんに涼奈(すずな)とお名前をつけてます。

海常高校には、有名な美人マネージャーがいる。
ファッション誌の人気モデルで、最近はバラエティやドラマにも引っ張りだこ。
そんな子が一般校のバスケ部のマネージャー。有名にならないはずもない。
…もっとも、そんな肩書きなくてもこいつなら有名になっていただろうけど。と、森山はバスの前の席に座る彼女を見ながら思う。
ルックスもさることながら、他の部活からスカウトされるほどの運動神経。素直じゃないところもありながら、明るく可愛らしい性格。
その他に、バスケ部なら注目せざるをえない点がもうひとつ。
……あの帝光中学校で、桃井さつきと共に一軍マネージャーを務めていた彼女が、バスケ部員の間で有名にならないはずがないのだ。

バスを降りると、ざわっと声が上がった。
その大半が俺たち選手ではなくマネージャーの涼奈であることを、俺たちはみんな知っている。
…涼奈は知らないかもしれないが。
「わぁ、先輩たち相変わらず注目されてるっスね!すごいすごい!」
なんて嬉しそうに言ってるし。自分がモテることは自覚してるくせに。
ふわりとウェーブのかかった髪を可愛らしいシュシュでまとめ、ブレザーもお洒落に着こなした涼奈は、贔屓目抜きでも普段の雑誌の時よりも可愛い。見てしまうのも頷ける。許すつもりはないが。
こんな思考を森山は常にしている。もっとも涼奈自身に言えば、「森山先輩は私のお父さんスか!」と爆笑されてしまうことは必至なので決して言わない。
(つーか、お前は無防備なんだよ)
モテるのは十二分に理解している彼女だが、バスケ部員にそのような目で見られることなどないと思い込んでいるから性質が悪い。バスケプレイヤーに夢を見ているのだ。
おかげで平気で部室で寝るわ、下着姿にならないとはいえ着替えるわ…強豪バスケ部員といえども健全な男子高生なのだ。本人が無自覚なだけ余計に、森山を含めた部員に確実に精神的ダメージが蓄積されていく。
…そして、その原因になっているのは、おそらく。
「…あ!あれは秀徳高校!おーい緑間っちー!!」
――キセキの世代。彼女の中学時代の仲間達に他ならない。


「あ、涼ちゃん!久しぶりー!」
遠目にもスタイルの良さが分かる少女の名前を呼びながら、隣に立つ真ちゃんを盗み見る。
涼ちゃん…黄瀬涼奈は、真ちゃんの中学時代のマネージャーだ。
モデルもこなす容姿に、マネージャー業も有能。人懐っこく明るい性格。
バスケ界では知らない者はいないといっても過言じゃないし、真ちゃんがいなければ話すことなど不可能だっただろう。
それくらい有名で、遠い存在だってこと。…たぶん、真ちゃんはそれを全然分かってない。
「おはよー、緑間っち」
「…こういう場で他校にあまり話しかけるものではないのだよ。後々戦うだろう」
「当たるの決勝じゃないスかー」
(うお、涼ちゃんの上目遣いをものともしてねぇ…)
…わけでもないか。
何でもないような顔をして涼ちゃんをいなしているけれど、こちらから見える耳はほんのり赤らんでるし、眼鏡の奥に隠した目はつとめて彼女を見ないようにしている。
「あ、そういえば赤司っちに呼ばれたんスよね。私と桃っち呼ばれてないのに。ちぇー、赤司っちに文句言ってくるっス!」
「あっ、ひとりで出歩くものではないのだよ!」
「子供扱いしないでほしいっス!」
そのやりとりに、俺は思わず爆笑しそうになって、慌てて口を押さえる。
(涼ちゃん、それ子供扱いっていうか、…ねぇ)
イマイチ伝わってない相棒の気持ち。そうしてそれをあの子に向けるのは、決して真ちゃんだけじゃない。


「あれ、黄瀬じゃん」
「あ、本当ですね」
女子の中では高い背と、見慣れたブレザーと、何よりも芸能人然としたオーラのような雰囲気。
そんな彼女を、先に見つけたのは青峰さんだ。
中学校時代のマネージャーで、幼なじみである桃井さんとも仲良し。僕よりも馴染みが深いのだろう。
僕と青峰さんの視線の先の美少女…黄瀬涼奈さんは、キョロキョロとあたりを見回している。
誰か探しているのだろうか。
「青峰さん、声かけなくていいんですか…?」
「あ?」
「ひぃ、スイマセン!」
「……いいんだよ。あいつプライドたけーし、気付かないフリしてやれば」
そう言ってふいっと顔をそむける青峰さん。
(……なるほど)
そういうものなのだろう、芸能人というやつは。
当たり前かもしれないけれどよく分かっている様子に感心しながら、僕も青峰さんにならってそちらから意識をそらそうとしたところで。
「あれーっ、黄瀬ちゃんひとりー?」
…とても耳心地の良くない声が聞こえた。
しかも、ひとつではなく。
「なになにー、誰か探してるのー?」
「ていうかこれから暇?」
「カラオケでも行こうよー!おごるし!」
所謂ナンパ。場所も弁えていない彼らは、きっとベンチにも入れないような人間たちだろう。いくら強豪だろうと、そのような輩はどの学校にも一定数いる。
(…大事になる前に、助けた方がいいです、よね…)
それは分かっていても、あちらは大人数。かたや、こちらは僕の他はやる気なさげに欠伸する青峰さんだ。
問題を起こすわけにもいかないし、とそこまで考えたところで、隣で舌打ちが聞こえ、反射的に「スイマセン!」と謝ったところで、隣に既に青峰さんがいないことに気付く。
「え、あ、青峰さん!」
「あの馬鹿…良、さつきに何か言われたら適当にごまかしとけ!」
振り返りもせず、そう言いながら走った先。
そこには既に、先ほどの光景はなかった。
「ちょっとー、黄瀬ちんに何してるのー?」
大きな影が、ひとりを吊り上げている。持たれている方もバスケ部員なだけあってそこそこの上背があるのだが、地面からはかなりの距離。
「む、むむ紫原!?」
「陽泉ならさっきあっちに…」
「黄瀬ちんのピンチに来ないわけなくない?」
「その通りなのだよ」
ガン、と耳を塞ぎたくなるような音とともに、地面から離れていくチームメイトを眺めていた他のひとりの顔にペットボトルが着地する。
ぐあああ、と上がる悲鳴に、僕は思わず目を伏せた。
同情をするつもりはもちろんないが。
(それより、青峰さん…やりすぎないといいけど…)
目を開けて、僕の身につけているのと同じジャージを探すけれど。
「…あれ?」
どこにもいない。青峰さんも、…そして、渦中の黄瀬さんの姿も、紫原さんと緑間さんが数人を一気にビビらせているその周辺には、どこにも見つけられなかった。


「うお、」
何か遠くで争っているような声がする。
気にはなるものの、俺も出場校の一員だ。万が一巻き込まれたら大変だから、近づいていくわけにはいかない。
そうは思うものの、少しくらいは見えないものかと、背伸びしてそちらを覗いていたら。
キセキの世代、桐皇の青峰大輝が、そちらから大股で歩いてくるのが見えた。
(うわ、本物…でかっ、そして黒っ)
優勝を目指すような強豪校ではないものの、一応全国大会に出てくるチームのバスケ部員。当然雑誌や、試合VTRでのチェックはしているが、生で見ると何か特別なオーラが出てるような気がする。
しかも、その彼が手を引いているのが。
(黄瀬さんじゃん)
多分、日本一有名なマネージャー。海常高校の黄瀬涼奈さんだ。
(顔ちっさ!足キレー…でも意外と胸は)
「あ?」
「え?ひいぃ!」
「ちょっと、何ガンつけてるんスか青峰っち!ていうか、いい加減私先輩のとこ帰んないと…」
突然、目の前に青峰と黄瀬さんがいて、思わず飛び上がる。
明らかに睨まれている。相手は年下のはずなのに、ちびりそうだ。
「黄瀬、分かっただろ。こいつお前のことずーっと見てただろうが」
「え?何言ってるんスか。この人が見てたのは青峰っちっスよ」
「……はー。もう、お前には言っても無駄だわ。海常んとこまで送ってく」
「ひとりで帰れるっスよ?」
「さっきまで言い寄られてたくせに」
「あんなのたまたまっスよー」
最後におまけでもう一睨みされ、青峰は黄瀬さんの手を引いていく。
命拾いしたような心地がしながら、ツイッターで囁かれる噂は本当なんだな、と思った。

いわく、『黄瀬はバスケ部員に対して警戒心0だ。理由は、保護者が目を光らせているから』と。

あれが彼女の保護者達
(まったくもってその通り!)

20140608

ちな様、大変お待たせしました!にょた瀬ちゃんちゃんと書くのがほぼ初めてなので、超難産でした…。
他者視点とのことで、森山先輩→高尾→桜井→名もなきモブの視点でお送りしました!最後は火神の予定でしたがこのときいませんしねw
しかも赤司様不在になってしまい申し訳ないですm(_ _)m
書き直しとかできる限り頑張りますのでお気軽にお申し付けください!



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