小説2 | ナノ


(甘党様へ/紫黄)

「おお、意外と緑茶味もありだー。フレンチトースト味も…」
…面白くないっス…。

新作お菓子のCMに出ることが決まった。
その製菓会社というのが、まいう棒を作っている会社で。
打ち合わせで、ついでに味見でもともらった新作まいう棒。
今紫原っちが食べている他にも、鯖みりん味だとか福神漬け味だとか、はっきり言ってあの会社が心配になるセンスの珍味の数々。
モデルという仕事もあって元々お菓子を食べる方ではないし、手をつけずに置いていたそれを、たまたま遊びに来ていた紫原っちが発見した。
そのラインナップに対して目をキラキラさせていた紫原っちのことも心配だ。
食べていい?と聞かれて、別にいいスよ、と大して迷うこともなく頷いたのはつい20分ほど前のことだった。
……そうして俺は今、そのことをすごく後悔している。

「ねー紫原っちー」
「んーちょっと待ってー」
大量の好物に気を取られ、返ってくるのは生返事。
「ナポリタン味おいしい…」
彼が見るのは、まいう棒のパッケージばかり。
口に出すのは、満足げな味の感想ばかり。
……彼の恋人は、俺なのに。

…変なの。
俺、お菓子なんかに嫉妬してる。
しかも、俺があげたものなのに。
「黄瀬ちんも食べるー?」
「…いらない、っス」
なんでこんなに心が狭いんだろう。
でも、せっかく会えたのに。
…そんなのより、俺を見て。って思ってる。

「……黄瀬ちん?」
ベッドでごろりとふて寝していると、隣にぽふん、と紫原っちが座ったのがわかった。
「もう食べ終わったんスか?」
「ううんー、残りは後で食べるー」
そう言って、まだ半分ほど残った袋を振ってみせる。
紫原っちが嬉しそうなのは、もちろん嬉しい。
けれど、それは俺のおかげだけどそうじゃない。
まいう棒がなくても、俺が同じように喜ばせることができたか、わからないんだ。
「黄瀬ちん、眠い?それとも具合悪い?」
「…そんなことないっスけど…」
ただ、嫉妬してる。彼の一部になることができる、そのお菓子に。
そんなこと言えるわけもなくて、笑顔を作って起き上がる。
「そー?…なら、よかった」
ふわっと笑って、紫原っちは俺にキスをしかけてきた。
不意打ちで、ぽかーんとしたままの俺に。
「今度は、黄瀬ちんを食べようかな。まいう棒よりうまいだろうなー」
「…比べないでほしいっス」
でも、その言葉も嬉しい。お菓子よりも俺の方がいいって、そう言ってくれるのが。
再び降ってくるキスに身を任せようと、俺は目を閉じた。

Eat me!
(俺のこと、美味しく食べて!)

20140214

バレンタインに何書いてるんだって話ですよ。
甘党様に捧げます。
お菓子に夢中のむっくんと構ってほしい黄瀬くん…のつもりではありますが…。
まいう棒のメーカーのセンスを疑う味ばっかり書いてる気がする。



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