小説2 | ナノ


(弦月様へ/今黄)

桐皇高校の屋上、昼休み。
普段は教室で昼食をとることが多い俺…今吉翔一は本日、弁当を片手にその場所にいた。
そこへ。
「今吉せんぱーい!お待たせっス!」
ドアが開いて、見慣れた黄色い頭が顔をのぞかせた。

桐皇高校、ダブルエースの片割れ。
バスケ部での活躍の傍ら、モデルもこなす学校一の有名人。
…だけどきっと。誰も、この事実は知らない。
もうひとりの天才、青峰大輝すら。
「…会いたかった、っスよ」
彼の恋人が、バスケ部の主将であることなど。

付き合い始めは、あまり大声で言える内容ではない。
…押し倒したのだ。彼が入部したての頃、ふたりだけの部室で。
当時、彼は別の人が好きだったらしい。もちろん、女の子が。
だけど、それは叶う見込みがない想いらしくて、あの日部室で彼は泣いていた。
…その横顔に、ふと思った。綺麗だと。
それまで、そんな目で黄瀬を見たことは一度もなかったのに。
当然抵抗されてその先までは進まなかったけれど、芽生えた気持ちは確かに存在していて。
その後、ちゃんと告白して今に至るわけだ。

…知らなかった一面がある。
モデル紙面で見る澄ました顔。バスケのときに見せる真剣な表情。
ふたりきりのときに見せる顔は、そのどちらでもない。
「へへ、先輩。この卵焼き自信作なんスよ」
「ほぉ。ほなひとつもらおかな」
とろけた笑顔。甘えるような声。
フォークに突き刺した卵焼きを、前に好きだと言ったことのある甘めにしてくれることも。
「ふぁー…」
「ん、眠いんか?黄瀬」
「昨日深夜まで撮影してたんスよねー…」
こしこしと目を擦りながらも、「せっかく先輩といるから」と、決して寝ようとはしないところも。
…そもそも深夜の撮影だって、本来は今日の昼間に予定されていたものを、俺と前々からしていた昼食の約束を反故にしないために無理にずらしたと聞く。
青峰との1on1や桜井に弁当を作ってもらう約束もスケジュールの都合でダメになると悲しそうではあるも、そこまですることはない。
その事実に、気付かれないように口角をあげてから。
「黄瀬、膝枕するから寝てや。倒れるで」
「でも…」
「ていうか授業中寝て補習になっても知らんで」
「うっ…」
痛いところを突かれて渋い顔をする黄瀬に、もう一押し。
「俺の言うこと聞けへんの?涼太」
「……もう先輩ズルいっス!じゃあ、ちょっとだけ」
今度は顔を真っ赤にさせて、黄瀬はコロリと膝に転がった。
名前を呼ぶだけで、こんなに初々しい反応をすること。
それなのに、
「…じゃあ先輩、キスして欲しいっス」
そんなふうに、急にズルいことを言い出すところも。
雑誌で見ているファンも、プレイに憧れるバスケ少年も、彼を俺より前から知るキセキの世代も。
きっと、誰も知らないこと。
…だけど、教えてやるつもりもさらさらない。
だって──
「しゃあないなぁ。一回だけやで…」
──それは俺だけの、特権だから。

恋人の特権
(渡すつもり、あらへんよ?)

20140121

弦月様の素敵リクがどうしてこうなった…。
桐皇黄瀬はもうちょっとえろいのをイメージしてるんですが、自分で書くとこうにしかならない。
関西弁難しいです…。



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