小説2 | ナノ


(かな吉様へ/青黄)

ある朝の桐皇高校。
「…今日は桃井もおらんし、どないして呼べばええんやろ…」
眼鏡を押さえつつ、今吉翔一は溜め息をつく。
彼の思考の内にあるのは、気まぐれで面倒くさがりのエースの顔。
…平日でさえ滅多に顔を出さない練習に、ましてや今日は休日。
普段なら気にしないのだが、今日の対戦相手は強豪だ。
都内のチームではないがIHに出てくるであろう相手。
予選に向けてのチームの連携なども試すにはうってつけの相手だし、何よりも負けるのは癪だ。
普段ならこんな時は、幼なじみであり家が隣のマネージャー桃井が引っ張ってくるのだけれど、今日は彼女は別のチームの偵察に行っていて不在。
いざとなったら部室に置いてあった堀北マイの写真集を盾に使うか。誰のかははっきりせんけど、どうせあいつんやし。などと考えつつ、体育館のドアに手をかけたところで。
「……ん?」
中からボールの音がする。
(…桜井あたりが早めに来て練習でもしとるんかな?)
普段は彼の場合、弁当に凝ったりしているようであまりないが、今日の相手が強いことは重々承知しているだろうし。感心だ。

そう思いつつ、ドアを開けて。
今吉翔一は、自分の目を疑うことになる。
桜井だとばかり思っていた中の熱心な奴が、彼より少し背が高く、そして圧倒的に黒かったからだ。

「あ、今吉センパイ」
「……熱でもあるんか、青峰」
「えっ!青峰っち具合悪いの?」
今吉の驚愕はまだ続く。
感心より心配が先立ち思わずそうかけた言葉に反応したのは、本人ではなくボールの入った籠の陰から立ち上がった人物だった。
派手な色の髪に、高い身長。整った顔立ち。
初対面ながら、見覚えのある姿。
バスケをやっている人間なら誰でも知っている、青峰の元チームメイトにして、今日の対戦相手のエース。
「…黄瀬、涼太ぁ…!?」
「あ、はじめましてっス」
他校の体育館で他校の主将と対峙しているのに、あくまで平然としたスマイル。
…これが、キセキの世代。
「おい、黄瀬ぇ!」
黄瀬の観察を始める今吉の後ろから、苛立った声がかかる。
そういえば、キセキの世代は不仲だと噂があったなあ、と今吉は思い出す。
…それなら、彼らはここで何をしていたんだろう。

「俺がいんのに他の男見てんじゃねーよ」
(!?)
もう自分の耳や目が、正しいものを見ているとは思えない。
…というか、そうでないと思いたかった。
自分に見向きもせず黄瀬のもとに向かった青峰が、
「……んぁ、あおみねっち…!」
…あろうことか、ディープキスを仕掛け始めた様子など。

「……青峰、俺部室で仮眠とるから一時間経ったら起こしてや…」
「あー、はーい。ほら黄瀬、もっかい1on1すんぞ」
「次は負けねっスからね!」
顔色を悪くしながら、未だ手を繋いだままの青峰と黄瀬に背を向ける。

……起きたらこれ、夢になっててくれへんかな。


うちのエースの秘密
(こんなの誰にも言えへん)

20140102

新年一発目からなんか微妙な出来ですみません…。
かな吉さまへ。
+桐皇メンバーといいながら今吉先輩しかでてない上若松さん諏佐さんなんかお名前すら出てませんが…こんなものでよければお納めください。



[back]