小説2 | ナノ


(流里様へ/キセ黄)


「ということで、第37回涼太の可愛いところ会議を始める」
帝光中学校は、昼休みを迎えていた。
今日は雨が降っているため、各々弁当を手に教室に集まったり学食のテーブルを取り合ったりと、いつもより人口密度が高く賑やかな校舎内。
その、三階廊下の突き当たり。めったに使われることのない会議室の入口に、珍しく掲げられた『使用中』の札。
その中では、5人の男子生徒が、厳かな雰囲気を纏い、緊張した面持ちで向き合っていた。
真剣な空気は、大人顔負けの真面目な会議のそれだ。
最も、彼らの前にそれぞれ置かれた弁当箱と、…上座に座っていた男が今しがた発した言葉の中身が、すべてを台無しにしているのだが。

彼らは、しばしばキセキの世代と呼ばれる。
まだ中学生ながら、その才能は頭角を表していて、バスケ界では知らない者はいない。
…が、その中の誰が、こんな姿を想像するだろうか。
チームメイトが学業の傍ら携わるモデル業で欠席するたびに、こんな恥ずかしい名前の会議を開いていることなど。

「赤ちーん」
「議長と呼べ。なんだ敦」
ひときわ背の高い紫原が手を上げ、まいう棒を片手に立ち上がれば、みんながそちらに視線を移す。
特に青峰など、この集中力は授業中ではありえない。
「昨日の体育で黄瀬ちんの腹チラいただいたー」
「…それは写真におさめたんだろうな」
「残念ー。俺だけの目の保養」
「……ぐぬう。まいう棒没収」
「あああ俺のコンポタ味…!赤ちん鬼!?」
「黙れ。僕に逆らうヤツはまいう棒でも…こうしてやる!」
ぱくり。そのまま主将の口に消えていくまいう棒を悲しげに見つめる2m超という稀有な光景がそこにはあった。
「…赤司。いいか?」
「よひ、はつへんをきょかふる。ひんたろう」
「飲み込んでから喋るのだよ…」
続いて手を挙げたのは、今日のラッキーアイテムであるサングラスを頭にかけているため眼鏡on眼鏡状態の緑間。
「黄瀬が今朝のおは朝に生出演していたのだが」
「おいなんだよそれぇ!緑間テメェそういうのは昨日のうちに言っとけよ!」
「サプライズ出演だったのだよ!」
「うるさいぞ大輝。それくらい把握しておくのは当然だ」
「俺も最近おは朝見てるからちゃんと見れたしー」
「げ、見てないの俺だけかよ…あ、そうだテツ、お前確かおは朝見てねぇよな!」
青峰は、期待の籠もった眼差しを隣に向ける。
普段は認識できないことも多々あるチームメイトだが、さすがにこの狭い会議室内では見失うこともない。
自分だけ遅れを取っているとは思いたくないから尚更だ。
しかし、それに対しての黒子の答えは、ますます青峰を突き落とした。
「普段は見てません。けど、昨日黄瀬君にメールもらいましたから」
「は!?だって俺には…」
「峰ちん、昨日黄瀬ちんと喧嘩したからじゃない?」
「え、いやでもあれ喧嘩っつーかただの言い争い」
「黄瀬は半泣きだったのだよ」
シャキン。
緑間の言葉の直後に、議長側から不穏な音。
恐る恐るそちらを向くと、どこから出したのか両手の鋏がキラリと光る。
慌てて青峰は箸を置き、両手を上げる。目の前にあるのは幼なじみの弁当であるし、どうせ後でコンビニに行くつもりなので全く心は惹かれない。
それを見て、満足そうに笑いながら赤司は言う。
「素直な子は好きだよ、大輝。でも涼太を泣かせた罪は重い。今日の基礎練は2倍だ」
「えー…ていうかあれは黄瀬が」
「それ以上喋るなら10倍も覚悟しておけ」
「いきなり増えすぎだろ!」
「それから、授業をサボってコンビニに行ったら桃井に言いつける」
「それだけは!頼むからやめてください主将!」
青峰の脳裏に、幼なじみの泣き顔が浮かぶ。黄瀬を泣かせると(主に周りが)厄介だが、彼女もなかなか面倒だ。
午後は空腹を抱えて過ごさなければならないようだ。お腹を壊すよりはマシだろう。
「…さて、あと数分で予鈴だ。そろそろ閉会にしようか」
「よっしゃ!今からなら購買ギリ開いてる!」
その言葉にうなだれていた顔をバッと上げ、光の速度で荷物をまとめて会議室を飛び出す青峰。
それを見送った4人は、ドアが閉まると同時に顔を見合わせて微笑む。
「邪魔者もいなくなりましたね」
「そうだな。さぁ、第二部を始めようか」
「ていうか峰ちん的にはこっちが本命だと思ってたんだけど」
「あいつは早弁していたからな、空腹感が勝ったのだろう。情けないやつなのだよ」

そうして、日常的に行われるその恥ずかしい名前の会議は、まだまだ続く。


とある会議室の一幕
(俺達だけの秘密)

20131029

流里さまに捧げます!
特に面白くないのですがギャグのつもりで書いてるんです。私のギャグのクオリティは底が丸見えです。
今回は青峰さんが不憫。というかつまらんこと言って泣かせたので自業自得のつもりです。
ちなみに第二部というのは写真交換会。雑誌の切り抜きから隠し撮りまで選り取り見取り。
こんなものでよろしければお納めくださいまし!



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