一周年記念企画 | ナノ
 

TAKE06
 

走って走って、電車に飛び乗って。
緑間っちの家の最寄り駅で降りて、また走って。
汗びっしょりで、髪もぼさぼさで。
格好悪くて、緑間っちに見られたら笑われそうな姿だけど。
ひとつだけ、願って。

おねがい、あたらないで、ってそれだけ。

信号待ちをする間も、焦って足踏みを繰り返す。
ふと思いついて、ポケットから携帯を取り出した。
発信履歴の一番上に、並ぶ11個の数字。
…そう、これがもし、あの夢と同じなら。
秀徳の部活は一日オフだけれど、…この時間、緑間っちは。

「…今?楽器店に向かうところだが」
電話の向こうのその声は、こともなげにそう言った。
「えぇっ!なんでっスか!」
「今日のかに座は最下位だったのだよ。ラッキーアイテムは…」
聞かなくてもわかる。
その占いは、すでに二回聞いた。
今朝と、…夢の中で一度。

「緑間っち、そこから動いちゃダメっス!」
嫌な動悸が止まらない。
走ったせいではない。俺は恐れている。
『ミドリンが死んじゃった』
「…させねぇっ、…スよ」
「…なんなのだよ黄瀬、夜中といい…おかしいのだよお前」
「おかしくていいっスよ!とにかく今はそこにいてっス!」
俺が間違ってた、それだけだったなら、どれだけ良いだろうに。

角を曲がる。
他のみんなより頭ひとつ分高い後ろ姿が見えた。
緑間っちは道の端に寄って、立ち止まっている。
何だかんだ言いながら、ちゃんと聞いてくれたようだ。

急に、目の前が明るくなったような気がした。
…大丈夫なのかもしれない。
だって夢の中では、俺はここにいなかった。
俺が来たことで、変わったのかもしれない、と。

だけど、現実は残酷だ。

「緑間っ…」
名前を呼ぼうとして、ふと止まる。
トラックの影が、俺を追い越す。
「──緑間っち!」
俺の声に反応して、振り向いて。
メガネの奥の瞳が、大きく見開かれた。

時間が止まった。


今度は目の前で
(彼は誰かに奪われた)



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