一周年記念企画 | ナノ
 

TAKE05
 

「しっかし、嫌な夢だったっスねー…」
練習を終えても、昨日見た夢が消えない。
…緑間っちが、死んじゃう夢を見たなんて。
今日が誕生日の恋人には、絶対言えないけれど。
万が一にも、俺がそれを望んでいるなんて、思われたくないから。

「今日の部活はここまで!一年、ちゃんと片付けし(ろ)よ!」
「ありがとうございました!」
笠松先輩に代わって部長となった早川先輩が、相変わらずラ行が言えてない口調で号令をかける。
「…黄瀬、どうしたんだ?」
「え?…あ、ごめん、大丈夫っス」
同級生に名前を呼ばれ、俯けていた顔を上げる。
「今日、お前変だぞ?具合でも悪いのか?」
「ヘーキっスよ。最近ファンの子がたくさん来てくれるんで疲れただけっス」
「心配して損した。死ね」
彼は肩をすくめると、あちらに行ってしまった。
…こんな風に、小さなところが違う、けれど。

……今日一日で起きたことの大きな流れが、あの夢と同じ。
いつまでもあの夢が消えない理由は、それだった。

午前中、一年生の部員が転んで怪我をした。
お昼、同級生にジュースをおごってもらった。
さっき笠松先輩と森山先輩が来て、アイスの差し入れをくれた。
今朝、おは朝の占いでかに座が最下位だったのも、ラッキーアイテムがヴァイオリンだったのも。
全部、あの悪夢の鮮明な記憶と、一致する。

部室に戻ると、タイミングよく携帯が鳴りだした。
ブルーのランプが青峰っちからのメールが受信したことを示しているそれを開く。

息が、止まりかけた。
『今日、緑間の誕生日だっけ?』
一字一句、変わらずにそれは。
夢の中で届いたメールと、一致していたから。

正夢だの予知夢だの、見たことも信じたこともなかった。
あれは、ただの嫌な夢だ。
偶然が、重なっただけだ。
…そう信じたいけれど。

シャワーも浴びず、とりあえず制服だけ着て。
「おい、黄瀬!?」
誰かの驚いた声に呼ばれたが、振り返ることもなく、全力疾走でその場を後にした。


信じたくないけれど
(嫌な予感が、する)



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