一周年記念企画 | ナノ
 

TAKE11
 

緑間っちの家の前の道を少し右に向かうと、大通りに出る。
コンビニに向かうにはその道を渡る必要がある。
それがますます、俺の焦りを加速させた。
車通りも決して少なくない通りだし、しかも今は夕方だからさらに交通量は増えているはず。
道沿いに歩けば横断歩道はちゃんとあるし、緑間っちは真面目だから絶対そこを渡るだろうけど。でも、絶対安心とは言いがたい。
だって、今日の緑間っちは、普段とは違う。
今日の緑間っちが何回も死んでいることを、俺は知っている。
俺だけが、知っている。

道の向こう側、コンビニの入口。
そのとき、そこから緑間っちが出てくるのが見えた。
こちら側に俺の姿を認めると、驚いたように目を見開く。
そう、だって愛し合った後は、俺は大抵緑間っちが起こしてくれるまで寝ているから。
緑間っちの驚いた顔は、俺の好きな表情のひとつで。
それを見て、俺は嬉しさと同時に、失う恐怖を思って。
だから、駆け出した。緑間っちに向かって、周りなんか目に入らず、緑間っちだけを見て。

「──っ…黄瀬!」
叫ぶような大声に、我に返る。
俺の好きな表情は、先ほどまでと比べると半分くらいの距離にあって。
もう少し近づけば、キスできるんじゃないかって見当違いのことを考えて。
それでやっと、つんざくようなクラクションの音に気付いた。
緑間っち以外の、世界が目に入った。
そうして左を向くと、すぐ傍まで迫った乗用車の運転席の、驚愕に染められた瞳と視線が合って。
指一本動かす暇もなく、世界が止まった。

身体に走る強烈な痛み。
でも、目の前に広がる赤は、俺のものではない。
今日と同じ日に。何度も見た、彼の、
「緑間っち!」
その真ん中に倒れる彼に駆け寄る。
救急車、なんて声が聞こえるけど、助かるなんて希望はどうしても持てなかった。
抱き起こした身体のあちこちから、血が流れている。
そんな身体で、痛いだろうに。辛いだろうに。
「…バカめ。いきなり道路に飛び出すやつがあるか」
かすれた声で呟いたそれに、俺は泣きそうになる。
だって、俺がもっと気をつけていれば。こうはならなかった。この結果は、俺のせいだ。
「…泣くな、黄瀬。別にお前のせいではない」
それに気付いたのか、苦笑いしながら手を伸ばし、緑間っちは俺の髪にそっと触れた。
そして。

眩む視界も、近づいてくる救急車のサイレン音も。
全部、俺の頭には入ってこない。
そして、腕の中の体温が、だんだん消えていって、それとともにやはり陽炎のような影が揺らめいて。
全てがまた終わり、そして始まった時。
7月7日のベッドの上で、その光景を思い。俺は、ひとつ涙をこぼした。

信じたくなかった。
『お前が無事でよかった』
なんて、笑っていた。
彼は、抗おうとしないで。
それを、受け入れていた。
俺の守りたかったものが、まるで守られることを拒否するように。
それを、認めてしまいたくなかった。
だって、認めてしまえば。分かってしまう。
俺のこの抵抗が、無意味だと。


これが君の望んでいた
(天命、だとしても)



back 前へ 次へ

 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -