小説 | ナノ


(緑黄/エイプリルフール)

今日はたまたま、帝光中学校バスケ部の春休み中唯一のオフ日だった。
普段しごかれていると、いざ休みになったとき物足りない…なんて青峰みたいにバスケに明け暮れようとも思わないが、なんとなく欲求不満だ。
今日のおは朝の運勢は一位。ラッキーアイテムのヘアゴムで伸び始めた前髪を束ね、買い置きしてあるおしるこを開けた。
さて、何をしようか。前髪を切りに行くのもいいが、ヘアゴムをつける場所がなくなってしまう。
というか、出かけるのは面倒だ。一緒に出かける相手もいない。
かといって、家にいても特にすることはない。学校から出された課題はとっくに終わっているし、家族も外出中。
もう一眠りしようかと、立ち上がったところで。
玄関のチャイムが、鳴り響いた。

ドアを開けると、自分より少しだけ低い身長の、見慣れた顔がそこにあった。
二年の途中に入部してきて、あっという間に一軍に来て。ずいぶん前から練習中も試合中も見る、常に一緒にいるそいつ。
モデルをしているというだけあって、女子が騒ぐのもわかる綺麗な顔立ちをしばし無言で見つめていると、その首が傾げられる。
「…緑間っち?来たらまずかったスか?」
「いや、…早く入るのだよ」
そう返せば、ふわりと微笑んで、玄関へと入ってきて。
そして、唇を重ねてきた。

黄瀬涼太と俺は、恋人ではない。
好きだと言ったことも、言われたこともないし、そのような関係に分類するほど甘い間柄でもない。
たまにこうして、家に訪れる黄瀬とキスをする。そのまま身体を重ねることも多い。
それだけだ。俺の家以外では会わないし、誰もこのことは知らないのだから。
「ヘアゴム、可愛いっスね」
「…嬉しくないのだよ」
「そういえば、今日はエイプリルフールっスよ」
「それがどうした」
「…好きとか、言ってくれないんスか」
「今日言ったら、嘘になるのではないのか」
「…そっスね。じゃあ、緑間っち」
シよ?
楽しそうに俺の前髪を弄んでいた黄瀬は、その会話に拗ねたように俯いて。
顔を上げたときには、そこに先ほどまでの無邪気な表情はない。
妖艶に笑って、呟いた言葉に、脳より先に俺自身が反応するのがわかって。
今日もまた、この男と雰囲気に流される。

そのまま、何度も抱き合った。
気がつけば外はすっかり暗く、貴重なオフはもうほとんど残っていないことを示していた。
不毛な行為。だっていくら繋がったところで、俺の抱える想いが伝わることはない。
黄瀬にとって俺は、セフレ以外のなにものでもないんだろう。もしかしたら、数いるそれのひとりかもしれない。
俺の気持ちが、黄瀬と釣り合うことはない。
「緑間っち、大丈夫っスか?ご飯できたから食べるっスよ」
今夜、家族は帰ってこない。そう言ったら泊まっていくと言って、飯を作りに出て行った。
最中は俺が男役、あいつの方が疲れているはずなのに、タフなやつだ。それとも、経験の差だろうか。
だとしたら悔しいことだ。そう思うほどに、気付けば好きだった。

セミダブルベッドは、二人で寝るには少々手狭だ。
黄瀬が来る日は大抵オフだが、次の日も休みだと仕事が入れられることが多いとかで次の日は学校や練習であることが多い。
今回もまた、明日は午後から練習だ。
なので泊まるときでも夜はしないし、だから最初は客間を用意したりしてみたが。
どうやら、人の体温を感じながら眠るのが好きらしい黄瀬は、寝る頃には毎回ベッドにもぐり込んでくる。
こちらとしては狭さ的にも理性的にもやめてほしいところなのだが、最近では諦めている。
「そろそろ寝るのだよ」
「んー、もうちょっと」
時計は日付変更まであと二分ほど。十分くらい前まではリビングでテレビを見ていたのだが、やっぱり疲れたのか眠そうにしている黄瀬を見かねて俺の部屋へと移動したのだ。
ほとんどまぶたが落ちそうなのに、黄瀬は携帯を開いたり閉じたりまた開いて画面を見たりを繰り返している。
俺としても眠いので早く寝てほしいのだが。ストレッチをしながら呆れた目を向けていると。
「…へへ、緑間っち」
「なんだ?」
「大好きっスよ」
一瞬、呼吸が止まりそうになって。それで気付いた。今日は、なんの日か。
質の悪い冗談だ。少なくとも、黄瀬にとっては冗談。
「…くだらないことを言っていないで早く寝るのだよ」
そう言えば黄瀬は笑って、枕元に携帯を置いて目を閉じる。
すぐに、すやすやと寝息が聞こえてくる。
俺もその隣へと入って、枕元の目覚まし時計をセットしようとして、それで。
その時計が、日付が変わってから五分ほど経っていることに気がついた。
じゃあ、さっきの言葉は。携帯を見ていた黄瀬は、当然時間はわかっていたはず。それなら。
きっと、保険だったのだろう。俺の拒絶を、想定した上で。
あの言葉は、嘘などではない。嘘という鎧で固めた、こいつの本音だ。
すっかり眠り込んだ様子の黄瀬。その額に、そっとキスを落として、呟いた。
「…ばか、なのだよ」
俺も、そしてお前も。
目尻から溢れた涙。先に答えを知ってしまって言うのは卑怯かもしれないが、目を覚ましたら真っ先に告げてやろうと思う。
胸の真ん中にずっと抱える、お前のそれと同じ気持ちを。

4月2日の本音
(嘘にするには好きすぎる)

20130401

緑黄可愛いよ緑黄。
あと両片想い好きなんです。リア充爆発すれ違え世のカップルたちよ!
私の話ってなんか全部似てる。ワンパターン!だがそこがいいっ!て方いないかしら(チラッ



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