小説 | ナノ


(鈴華様へ/キセ黄寄り総愛され)


火神大我、困惑なう。
ツイッターで呟くなら、その一言で足りる。
僕の隣の彼は、まさしくそんな感じです。
「…これはcastleデスカ?」
日本語覚えたての外国人ですか。
「家です」
「アメリカでもねぇよこんな家…」
火神君の身長の数倍の高さの門、終わりの見えない高い塀。
遠くに見える建物も、城といっても差し支えないサイズであることがわかる。
初めて見たなら、僕も同じようなことを思っただろう。こんなバカそうなリアクションはしないけれど。
しかし幸運な、または残念なことに、僕はこの建物をよく知っていた。
赤司邸。キセキの世代のキャプテン赤司征十郎の実家だ。
中学時代、何度もこの中に足を踏み入れた。泊まるとき用に僕達用の寝室があったり、他校の分析のための映画館にあるようなスクリーンの部屋があったり、紫原君用にお菓子の部屋があったり、それらが全部僕の部屋の十倍はあったり。
なんというかコメントしかねる感じの家だ。
そんな赤司邸に、火神君同伴で来るようにと赤司君からメールがあったのは昨日のこと。
どんな手を使ったのか部活側にも話を通されていて、監督と主将の許可ももらってここにやってきたのだ。
「つーか…なんで俺まで呼ばれたんだ?」
「さぁ、知りません」
とはいえ、伊達に中学からの仲ではない。赤司君の考えなら見当はついている。
今夜8時、生放送のトーク番組。
そこに、僕達の元チームメイト、黄瀬君が出るからだろう。
今までも彼が出演するときには、こうやって集まっていたから別に珍しいことではないのだが。
火神君まで呼ぶのは意外だった。
『黒子様、火神様、お待ちしておりました』
「ほあっ!?」
そんなとき、門の上のスピーカーから声。
それにオーバーにすくみ上がる火神君。
そんな彼に、初めて来たときの青峰君の姿が重なる。
微笑ましく思いながら、滑らかに開く門の中へと足を踏み出した。

「よく来たね、テツヤ。火神も、いらっしゃい」
大きなスクリーンが設置された部屋に、赤司君はいた。
中学時代は、他校のビデオを見るためによく訪れた部屋だ。
呼ばれたのは僕達だけではないようで、部屋の中には見知った顔がいくつか見える。
海常の笠松主将と談笑しているのは秀徳の高尾君。その向こう側で緑間君が大きなテディベアを抱えていて、それに興味を持っているのは桃井さん。部屋の反対側には、大量のお菓子を抱えた紫原君とチームメイトの氷室さん。
「よー、テツじゃねぇか。…って火神もかよ」
椅子に座って堀北マイの写真集をめくっていた青峰君が、こちらを向く。
これだけの人数、しかも二メートル超えを含む長身のバスケ部員ばかりが集まっても、窮屈さは全く感じない。
そうして、しばらくばらばらに過ごしていた僕達は、赤司君の合図で広い部屋の真ん中に集まった。
「みんな、集まってくれてありがとう。今日集まってくれたのは他でもない、今夜8時の涼太の番組を見るためだ」
それだけのために京都から来たのか、という声が聞こえる気がした。もちろん出所は僕達帝光出身以外の面々だ。
それだけのために帰ってくる人だってこと、僕達はとっくに知っている。だって、あの番組はたしか関西では放送されていないはずだ。
そして、僕達を集めた理由も。僕には、その顔を見れば簡単に見当をつけることができた。

赤司君から振る舞われた紅茶を飲み、お菓子を分けてもらいつつしばらく隣の紫原君と世間話に興じていると、大型スクリーンがひとりでに明るくなった。
「うおっ!?」
それにまた大げさなリアクションをする火神君。さすがアメリカ帰りです。
「うるさいのだよ、火神」
緑間君がそれに苦言を呈す。彼が初めて来たときに似たようなリアクションをしたと赤司君から聞いているが、それは言わない方がいいのだろうか。
明るいイントロとともに画面に番組タイトルが表示され、こちら(というかカメラ)に手を振る黄瀬君と司会者が映し出された。
日本中のお茶の間から黄色い声が上がるのが聞こえる気がする。やっぱり、今日の黄瀬君も目に痛いほどきらきらしている。
『今日のゲストはファッション雑誌***専属モデル、黄瀬涼太。芸能活動の傍ら、強豪校でスタメンの実力を持つほどのバスケプレイヤーで、部活に打ち込む姿からそちらのファンも多く、現在人気急上昇中だ』
アナウンサーの紹介と共に、画面にはところどころが隠された簡易プロフィールが表示される。
「…あ、この写真。撮ったの俺だ」
名前の横の写真を指差し、高尾君が得意気に呟く。
「涼ちゃんと遊んだとき、最近の写真で番組に持ち込むやつ選んでって言われたんだけど、ぱっとするのなくてさ。どうせなら撮ろうぜって」
「…高尾、それはいつの話だ。何故俺を誘わない」
「誘ったけど真ちゃん、『面倒なのだよ』とか言って来なかったんじゃん」
「それは!お前と二人だと思ったからで…!」
「俺とは面倒だけど涼ちゃんとは遊ぶの?ひでー」
相変わらず仲良しな二人だ。モノマネのクオリティが高すぎる。
そのまま、話しながらめくられていくプロフィールが下にスクロールする。
話題にのぼるたび、一喜一憂したり一喜一憂してるのを隠したりしているみんなだが、多分考えていることは僕と同じだろう。
…一番下が、気になる。
『大切な人』
みんな多かれ少なかれ、黄瀬君に好意を持っている今日のメンバー。氷室さんだけは紫原君の付き添いかとも思ったが、画面から目をはなさずにそわそわしてる様子を見るにきっと彼も。

「…さて、最後に『大切な人』ですね。これはスキャンダルの予感か?」
「そういう煽りとかやめてくださいよー」
そう言いながらも頬を染め、満更でもない様子の黄瀬君。関東だけとはいえ公共の電波でそんなに可愛い顔をしないでくださいといつも言ってるじゃないですか。可愛いとは言ってませんが。
そこで挟まれたCMが開けると、部屋が静まり返る。
紫原君はお菓子を食べず、誰も喋らず。『大切な人』の部分が開くのを待つ。
そうして、アシスタントがそこを剥がした。

「中学時代のチームメイト、ですか?」
「はい。レギュラーならキセキの世代とか呼ばれてて、知ってる人もいるかもですね。当時レギュラーだった人以外も、もちろんみんなっス」
誰も言葉を発しない。
「俺がバスケを始めたきっかけで、続けてこられたのも全部みんなのおかげなんスよ。世界で一番大切っス」
だけど僕達、帝光OBの間には、他の面々とは明らかに別の感情がある。
火神君達を呼んだ赤司君の意図は思った通り、これをみんなに見せつけることだったみたいだ。
優越感と、…それ以上に大きな嬉しさ。
だって、これで証明された。どこにいようと、彼は僕達の黄瀬君だ。
直接言うことはないけれど、緑間君も青峰君も桃井さんも、紫原君も赤司君も、ここにはいないけれど灰崎君なんかも。
…そうして僕も、それが嬉しい。


あの子はやっぱり僕らのもの
(特別なのは、僕達だけ)

20130502

鈴華様、お待たせどころじゃないくらいお待たせしました!しかもこのクオリティである。
キセ黄寄りというか八色キセ黄なのは私の趣味。かといってショーゴ君をがっつり出す気はなかった。←
TV出演真っ最中の反応ゆえ、黄瀬君が画面の中からの出演ですみませぬ…
番組はたぶん実在しないと思われ。あえて言えば司会者とマンツーマンなしゃべ●りみたいなイメージ。
キセキ厨で黄瀬厨赤司様とか、赤司邸が城なのとか、秀徳コンビが会話してるのとか、涼ちゃん呼びとか、そして無駄に長いのとか私の趣味しかないのでもうアレなのですが書き直しならいつでも受け付けますので許してください…!



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