小説 | ナノ


(とかの様へ/キセ黄)


12時20分。
帝光中学校の静かな校舎内に、軽快なチャイムが鳴り響いた。
昼休みの開始。生徒達の憩いの時間。
…だが、今日に限って、一部の生徒の間では、この時間は戦場だ。
帝光中学校バスケットボール部。後にキセキの世代と呼ばれる、レギュラーメンバーの面々にとっては。

『今日は早起きしたから、お弁当作ってきたんスよー』
きっかけは、朝練の前のランニング中の、黄瀬涼太のそんな一言だった。
他の一軍メンバーにとっては、ふーん、と思う程度のそれ。
しかし、彼らにとっては違った。
というのも、黄瀬が晴れてレギュラー定着を果たした数ヶ月前、歓迎パーティーという名目で他のレギュラーが家に押しかけた。
そのとき、彼に振る舞われた手料理が、一流シェフにもひけをとらない美味しさだったのだ。
黄瀬いわく、一流シェフの手元をコピーすれば簡単だそうだ。模倣能力の本気。
とにかく、彼らにとって、そのお弁当はどんな高級料理にも負けない魅力なのである。
…もっとも。例えその料理がマネージャー桃井並みの兵器でも、彼らにはあまり関係ない。黄瀬手作り、というのが重要なのだ。
出会って半年も経っていない黄瀬に、レギュラーたちは面白いほど呆気なく惚れていたから。

「緑間、どこ行くんだ。お前弁当だろ」
青峰大輝が教室を出て行こうとする緑間真太郎を捕まえ、捕まった緑間は小さく舌打ちをした。
「…お前こそ、早く購買に行かないと売り切れるのだよ」
「今日は黄瀬の弁当があるからな。いらない」
…正直なやつである。
「お前は教室でさつきとおかずでも交換してろ。あいつはともかく母親は普通に料理上手いし」
「桃井なら今日は和泉と二人で食べるそうだ」
基本的には学食のテーブルで、レギュラー陣と桃井で食べるのが常だ。主に、男女問わずいる黄瀬ファンへの牽制目的で。
しかしお弁当のときは話は別。黄瀬がお弁当を持ってくるときは大体、静かな場所で食べたいときだと知っているから、桃井は彼の邪魔をしない。
しかし、レギュラーたちはするのだ。

「黄瀬の弁当は渡さねぇよ」
「お前のものではないのだよ」
「これから俺のになるんだよ」
入口付近で争っていた青峰と緑間の視線の先。
教室と廊下との間の小窓から、見慣れた人影が数人分、進んでいくのが見えた。
紫原と赤司。見えないが、おそらく黒子も一緒。
昼休み開始から五分ほど過ぎているのは、自分たちと同じように小競り合いをしていたからに違いない。
目的は、勿論同じだろう。
勢いよくドアを開け、前を走る彼らの名前を叫びながら、ふたりも同じ場所を目指して駆ける。

目指す場所は、ひとつ。
バスケ部の部室の裏、静かで日当たりのいいベンチのある、黄瀬の特等席だ。

昼休みの攻防
(真剣勝負、スタート)

20130301

とかの様、もう何千年待たせてるのかという感じですみませぬ…!
黄瀬は静かにご飯食べたいタイプだといい。それなのにひどいキセキ。



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