小説 | ナノ


(緑黄)


………黄瀬が、好きだ。
いつからだったろう。そう思い始めたのは。
あいつが俺以外に笑うたびに苦しくなって、知らない顔をするたびに遠く思えて。
女みたいだ。
…いっそ、自分が女だったらよかったのにと思う。
だけど俺は男で、黄瀬も男で。だから出会った。けれど、だからこれ以上は近づけない。
そこらへんの女が立つことができない、同じコートに立つことはできても。
俺は、黄瀬の隣に、立てない。

『今日のおは朝占いは〜』
軽快な音楽と共に、占いのお姉さんがテレビの中に登場する。
毎朝の日課。寝ぼけた頭を起こしながらのおは朝占い。
『今日、もっとも良い運勢は…かに座のあなた!』
一位を告げる明るい声も、俺の気分を晴らすには足らない。
…今朝、夢を見たせいだろうか。
中学時代のチームメイトの夢だった。今は神奈川で、バスケとモデルの両立を頑張るあいつ。
…初めて会った頃から、ずっと。俺が恋い焦がれ続ける、あの男。
そいつの隣に立つことができる存在に、夢の中の俺はなっていた。
現実では絶対にありえないそれは、希望なんか生み出さなくて。気分を重くするだけだった。
そんな俺に、追い討ちをかけるように。
『家を出て最初に出会った人が、あなたの運命の人です!想いを告げてみて!』
おは朝の占いは当たる。…けれど、今日の結果を無邪気に信じることは、できそうになかった。
だって、想いを伝えたところで。叶うはずもない。優しいあいつはきっと、困ってしまうから。
…第一、出会えるわけない。だって黄瀬は神奈川にいる。
俺と黄瀬の間には、物理的にもそれ以外も、はっきりとした距離がある。

………でももし、それで会えたなら。それはもう、運命だろうか。

…なんて。
「…馬鹿な」
続いて示されたラッキーアイテムの所在を脳内で確認しながら、ひとり自嘲する。
そんな夢はもう見ない。叶わない妄想は、悪夢に等しい。

玄関を出る。
「…おはよ、緑間っち」
…呼吸が、とまるかと思った。
……これは夢だろうか。
だって、そこにいたのは。そこに立っていたのは。
…家を出て、最初に出会ったのは。

「…どうしてお前がここにいる」
「今日、秀徳の近くのスタジオで撮影なんスよ。せっかくだから緑間っちと行こうと思って」
夢の中のままだと言われても納得する。だって、少し低い目線が、すぐそばにある。

叶わない妄想は悪夢と同義。期待するだけ無駄だ。
だけど、それがもし。少しだけ背伸びすれば届きそうなくらいに近づいてきたとしたら。
「黄瀬」
「なんスか?」
手を伸ばしてみるのは、それほど悪いことじゃないはずだ。
「ずっとお前に言いたかったことがある――…」
だってこれは、天命だから。


神様がそうしなさいって言ったから
(運命という、やつなのだと思った)

20130201

青春シューティングスター様に提出。
なんか緑間っちが女々しくそして受けくさくなってしまった…(笑)



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