小説 | ナノ


A Happy New Year! 2013
(灰黄)

「はぐれんなよ、リョータ」
「こっちのセリフっスよショーゴ君のチ…なんでもないっスなんでもないから拳握んのやめて!」
「大して身長変わんねぇだろうが」
なかば拗ねているショーゴ君の機嫌を取るため、とりあえず笑いかける。
こんな所に来てまで喧嘩したくない。
「しかしすごい人っスねぇ」
「物好きなんだな」
「俺らもっスけどね」
両親が海外旅行中の俺の家に、部活が休みらしいショーゴ君が数日泊まっている。
さっき年越しそばを食べて、腹ごなしにちょっと歩こうと散歩に出て、ついでに寄ったここ。
近所の小さな神社。
特に有名なわけでもないここも、今日に限っては人の波だ。
12月31日。あと一時間ほどで、年が明ける。
「つーか寒ィんだけど。もう帰ろうぜ」
「せっかく来たんスからお参りして行くっスよ!」
「だってこの列全然進んでねーじゃん。年明けちまうぞ」
「紅白とかカウントダウンとか、興味ないって言ってたじゃないスか」
「ちげーよ。お前に突っ込んで年越したかったのに」
「サイテーっス」
「うっせぇな寒いんだよなんか買ってこい」
「唐突!ていうか俺が行くの確定スか…」
「文句あんなら帰るぞ」
「わかったっスよー」
本当に帰ってしまいかねないので、仕方なく列を離れ、屋台が並ぶ方向へと足を進めた。

「遅い」
「しょうがないじゃないスか!」
ここが混んでいれば当然、あちらも混んでいた。
長時間並んだ上、女の子に囲まれてしまったりして。…不機嫌になるから言わないけど。
買ってきたおでんを差し出せば、ぶつぶつ言っていた口はとりあえず静かになった。
二人で熱々のそれを頬張っている間に列は進み、気づいたら列の一番前まで出ていた。
「ほら、ちゃっちゃとやって帰んぞ」
「はいっス」
定番の五円玉を箱に投じ、願い事を心の中で唱える。
何度も、何度も。たったひとつを。

ずっと一緒にいられますように、と。

女々しいとは思う。
本当に信じている訳でもない。
ずっとなんてどこにもないって、とっくに知ってるのに。
…だけど、もし叶ったらなんて。そう思うくらいに。
ショーゴ君がいるのが、俺にとって当たり前なんだ。

「…いつまでやってんだよ、バァカ」
目を閉じたまま手を合わせていたら、コートのフードを引かれた。
「あぁー、もうちょっとっス!」
「長ぇ。後ろ見てみろよ、つかえてんだろ」
強制的に手を引っ張られ、人波にのまれて、気づけば神社を出ていた。

「もう少し祈りたかったのにー…」
「うっせぇよまだ足りねーのか」
少しだけ拗ねつつ、家への道を歩く。
最も、なかば拗ねたふりなんだけど。
だって人気の少ない道に、…繋がれたままの左手に。
嬉しくならないはずがないんだから。
ショーゴ君は、ずるい。
「何願ってたか知らねーけど、お前のチンケな願いなんか、俺が叶えてやんよ。…お前は俺のもんだからな」
ほら、やっぱり。
「…かなわない、っスねぇ」
「あ?なんて?」
「別にー。ショーゴ君の願いの方がどうせチンケっスよ」
「いい度胸してやがんなぁリョータァ」
「だから拳握んのやめるっス!」
先ほど出てきた神社から、鐘の音をかき消さんばかりの歓声。
どうやら、年をまたいだらしい。

そのまま視線を横にずらせば、目が合って。
相変わらずの凶悪面が近づいてくるのに合わせ、目を閉じる。

永遠が見える、気がした。
神様には叶えられない願いの答えは、きっとここにあるのだ。


かみさまがいなくても
(ショーゴ君が、ここにいるから)

20130101


明けましておめでとうございます!
去年はお世話になりました。今年もよろしくお願いします!
とりあえず来年も受験とかにならないよう、もう少しだけ頑張ります(笑)
二期も決定したことですしね!



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