小説 | ナノ


8/31 Happy Birthday!
Daiki Aomine!


(青黄)



『大ちゃん、お誕生日おめでとう!』
何年経っても変わらず、0時丁度に入る幼なじみからのメール。
もう隣にはいないけれど、こういうところは相変わらず律儀だ。
…それに比べて、あいつはなんなんだあいつは。
直接どころか、電話もメールも何も入れてこない黄瀬に、心の中だけで悪態をつく。

『ごめんね青峰っち…。ちょっとトラブル起きちゃって、帰るの2日くらい遅れちゃいそうっス…』
泣きそうな声で電話が入ったのは、一昨日のことだった。
カレンダーの撮影だかで、1週間前からハワイに行っている恋人は、予定では昨日帰ってくるはずだった。
電話口からはだいぶ焦っている声と、ばたばたとうるさい後ろの雑音。
忙しくしている彼は、俺の誕生日なんて忘れている。
今更誕生日なんて歳でもないけど、それを寂しく感じる俺が、どこかにいる。

女々しいな、と思う。
誕生日だとか、記念日だとか、クリスマスとか年末年始とか。
職業柄、あいつがそういったイベントを重視するのは難しいことだ。
そんなこと、高校の時から知っていた。
それでもいいと、黄瀬との未来を選んだのは紛れもない俺なのに。
その埋め合わせをするかのように、数少ない休日はずっと一緒にいる。
あいつが怒ることも減ったから自然とケンカも格段に減った。
あいつが、俺のために努力していることなど、充分すぎるほどわかっているのに。
不満を持つなど、ありえないと。
頭では、わかっているのに。
「…黄瀬の、ばーか」
八つ当たりだとわかっていながら。
隣に、予定通りならいたはずの恋人がいないことに妙に苛立ちをおぼえて、ふてくされて眠りについた。


「青峰ー。ホントに行かねぇの?」
「あー、今日はいいや。また今度奢れよ

「やだよ!誰が奢るなんて言った!」
「俺、誕生日」
「さっきコーヒー奢ったろ!」
飲みに行かないか、と隣の席の同僚に誘われたが、断って定時で家路につく。
好意は嬉しい。奢ってくれるのも。
…だけど、俺が祝ってほしいのはお前じゃない。
黄瀬が、ここにいないのなら。
誰と一緒にいても、ひとりでいるのと同じだから。

駅からほど近いマンションは、黄瀬の持ち物だ。
一緒に住み始めると決めた、大学2年の夏。
あいつはバカ高い新築のマンションを一括で買って笑った。
『青峰っちには、いつももらってばっかりだから』なんて。
…もらっているのは、むしろ俺の方ばかりなのに。
あいつが笑うだけで、俺は元気になれるのに。
あの唇が俺の名前を呼ぶだけで、疲れなんて吹き飛ぶのに。

マンションが見えてくる。
最初はオートロックにも、無駄に豪華なエントランスにも慣れなかったけれど。
今は住み慣れたそこの、3階の角部屋が俺達の部屋だ。

……誰もいないはずのそこに。
明かりが灯っているのが見えた。

そこを見つめて立ち止まって、しばし考える。
誰か来る予定だっただろうか?
(だけどオートロックだし)
朝、電気を消し忘れたのか?
(そもそも朝はつけないが)
…泥棒か?
(電気つけねぇだろ普通)
……赤司か?
(鍵を渡した覚えは全くないが、あいつならありえるのが怖いところだ)

可能性は、いくつもある。
だけど、俺が求めているのはひとつ。
…それであればいいと願いながら、エレベーターを待つのももどかしく、非常階段を一気に駆け上がった。


果たして。
「…おかえり、青峰っち」
…待ちわびていた姿が、そこにあった。
これは夢なのか?
「…なん、で」
「青峰っちの誕生日だって、思い出して。無理言って仕事急いで、帰ってきたんス」
思わず荷物を取り落として、玄関先であることもいとわず抱きつく。
だって、1週間ぶりだ。
この体温を、匂いを、感じるのは。
「青峰っち、苦しいっス…でも、幸せだ…」
「………会いたかった」
「俺もっス…」
額に、瞼に、頬に、耳たぶに。
順に落としていった唇を、最後に黄瀬自身のそれに重ねる。
軽くついばむようにして離せば、物足りない、というようなとろけた瞳と目が合った。
その姿に苦笑して、もう一度重ねる。
何度も、何度も。
そうして俺達は玄関で、何度もキスを繰り返した。

「…謝んなきゃ、いけないことがあるんス」
テーブルに用意された少し豪華なディナーと、(よくわからないけど)高そうなワインに感嘆しつつ味わって、食べ終わった頃。
向かいに座った黄瀬が申し訳なさそうな声を出す。
「ん?何がだよ」
「…予定詰まってて、…プレゼント、用意してないんスよ…」
俯きながら言う声は、泣き出しそうに潤んでいる。

…普段なら、ここで。
『プレゼントはお前でいい』なんて言って、そのままベッドに直行コースだろう。
けれど、今は見えないその目の下に、隈ができているのを俺は知っている。
撮影を無理に急いで、そのあと急いで帰国して。
さっきテーブルに並んでた料理も、きっとひとりで全部作ったんだろう。
そっちには疎い俺でもわかるほど明らかに手間と時間がかかっていそうなメニューばかりだったから、休む暇などなかっただろう。
黄瀬は飛行機の中で寝られないから、ひょっとすると丸1日以上寝ていない可能性もある。
そんな身体だとわかっていても、1週間ぶりに抱く恋人に半端で我慢できるわけがない。
…だったら。
「とりあえず明日にしろ。寝ようぜ」
こうするのが、一番いい気がする。

「青峰っちダメっ!せめて皿洗いだけでも、」
「明日にしろって。皿は逃げねぇから」
嫌がる黄瀬を無理矢理抱き上げて、寝室に移動する。
「じゃあせめてシャワーだけでも!俺すげぇ汗臭いっス…」
「なんもしねぇよ」
「え!?…青峰っち、熱でも…」
「ねぇよ額近づけんな!」
お前の中で俺はなんなんだ。本気で心配してるのがムカつく。
熱をみようと近づけてきていた頭に、とりあえず頭突きをお見舞いしておいた。


「黄瀬」
「んぅー…」
うだうだ言いながらも眠かったらしく、ベッドに入った途端に瞼が閉じてしまった。
「明日は仕事なのか?何時に起こせばいい?」
寝かせてやりたいのは山々なのだが、仕事に遅刻させてしまうわけにはいかない。
さっき聞いとけばよかったな、と後悔しつつ、もう一度黄瀬、と呼ぶ。
「……明日は、オフ…っス…」
うっすらと目を開けて、少し舌っ足らずに言う。
そのまま眠りにつくかと思いきや。
「青峰っち、…誕生日、おめでと…」
そう言って、今度こそ瞼は完全に閉じられてしまった。

「…っ、たく」
タオルケットをかけつつ、なんとなく恥ずかしくなって顔を背ける。
もっとも、赤い顔を見ることができる相手は、すっかり夢の中なんだけれども。
シャワーだけは浴びようかと思っていたが、俺もそのまま眠ることにする。
今は、離れたくなかったから。

起こしてしまわないようにそっと隣に寝転がる。
明日は朝一に、会社に電話をしなくてはと考えながら。
急な有給申請は、上司に怒られるかもしれないけど別にいい。
昼頃ゆっくり起きたら、こいつが元気そうなら、1週間分抱き合おう。
夕方くらいになったらきっと、やっぱりプレゼントを買いたいと言い出すだろうから、買い物に出ようか。
まだ疲れが残っているなら、1日中ごろごろするのもありだな。

1日遅れの誕生日が来たかのように、明日の予定を考えるだけで幸せだ。
だって、実際のところ。
プレゼントなんてなくても、構わないんだから。

眠りの縁をさまよいながら、腕の中の体温をぎゅっと抱き締める。
俺の誕生日に間に合うように急いで帰ってきてくれたこと。
眠いのに、我慢して祝いの言葉を口にしてくれたこと。
…俺の隣に、いてくれること。

プレゼントなら、もうもらった。


君がいてくれるから
(幸せが、降ってくる)

20120831

pixivにも同じのあげてます。キャプションが病気。
青峰っちおめでとう!
私からのプレゼントとしてモデルをちょっとデレさせてみた。(当社比)
これからも青黄幸せであれ!



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