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(みかん様へ/キセ黄)


黄瀬がおかしい、と言い始めたのは、同じクラスである紫原だった。
「おかしい?」
「うん。黄瀬ちん、なんかぼんやりしてるんだよねー。食欲もないって言うし、大丈夫かなぁ…」
だからこの場…昼休みの学食の、毎日座りすぎてすっかりバスケ部のものと化しているテーブル…にもいないのか。
「朝来る途中に会ったけど、普通だったぜ?」
「峰ちんなんかどうせちゃんと見てないでしょ、黄瀬ちんのこと」
「なんでだよ!」
一言言えば、紫原にバッサリ切り捨てられた。
なんの恨みがあるんだ俺に。
俺だって黄瀬のことちゃんと見てるんだよ。
今日は本当に普通だったんだよ。…よな?

「赤司君」
「…テツっ!?」
後ろから声が聞こえ、振り返ると真後ろにテツがいた。
なんか、いつもより薄くねぇ!?
「おかえりテツヤ。どうだった?」
「やっぱり黄瀬君、具合悪そうでした。教室で寝ちゃってたんで声はかけてませんが」
「…やはりな。…敦」
「りょーかーい」
立ち上がった紫原に続いて、みんな立ち上がる。
「え、どこ行くんだよお前ら!」
「あぁ、大輝は来なくていいよ」
「は!?」
置いて行かれる気配に、俺も慌てて立ち上がる。
このテーブルに座ろうなんて、赤司という人間を知ってれば絶対しないだろうし大丈夫だろ。

向かった先は、黄瀬と紫原のクラスだった。
中を見渡せば、突っ伏している黄色い頭が目に入る。
いつもはうるさいくらいなのに、やけに静かな教室だと思った。
なんだ、本当に具合悪いのか。
「バカは風邪引かねーのに…」
ぽつりと呟いたら、隣に立っていた緑間に足を踏まれた。
「お前が言うな、なのだよ」
「なんだよ踏むことねーだろ!」
「だからお前はダメなのだ。青峰」
「余計なお世話だ!」
緑間と言い争っていたら、目の前にでかい影ができた。
「うるさいよミドちんも峰ちんも」
「あ?なんだよ紫原…黄瀬?」
紫原を見上げると、なぜか背中に黄瀬を乗せていた。
…おーい、180センチ越えた男だぞ。
黄瀬は担がれていることにも気付いていないのか、ほんのりと赤い顔で眠っているようだった。
なんつーか、うーん…エロいな。
「だからお前はダメなのだ。青峰」
「また言うのかそれ!」
「うるさいよ真太郎、大輝。そんなに元気が余ってるならメニューを10倍にしようか」
「はぁ!?横暴だろそれつーか死ぬし!」
「ん?大輝は20?」
……赤司なら本当にやりかねない。
「とりあえず今は静かに。涼太が起きてしまうだろう?」
「…そんなにひどいのか?」
緑間が神妙な顔で聞く。
「少し熱があるみたいだ。ただの風邪だろうが、大事をとって今日は早退だな」
「悪化してもいけませんしね…」
いつの間にかテツが、黄瀬の荷物を持って紫原の後ろに立っていた。
だからお前今日はミスディレクション働かせすぎだろ!
「さぁ、僕達は涼太を送るけど、大輝はどうする?」
「え?お前らみんなで?」
「青峰君がどうしても嫌ならいいです」
「は!?いや俺も帰るよ!」
「そうか、じゃあ、大輝」
荷物、よろしくな?
赤司はいい笑顔で、そう言った。

「重い!何入ってんだよ!特に紫原と緑間!」
「おかしー」
「今日のラッキーアイテム、漬け物石なのだよ」
自分のを含めて6人分の荷物は結構重い。
教科書とか持ってってんのかな。
てか、
「紫原と黄瀬はともかく、他のお前らは自分で持てんだろ!」
…綺麗に無視された。

「……ん…?」
「あ、黄瀬ちん起きたー?ちょうどよかった、鍵開けてよ」
黄瀬が目を覚ましたのは、タイミングよく、黄瀬のマンションの前だった。
赤司と緑間とテツは、途中で薬局に立ち寄っているので、ここにいるのは俺と紫原と黄瀬の三人。
「…紫原っち…?青峰っちも…あれ?ここって…」
「お前んちの前だ。…ったく、具合悪いなら言えよ馬鹿」
「峰ちんうるさいー。黄瀬ちん大丈夫?」
騒いでねーよ!
「送ってきてくれたんスか?スマセン…鍵開けるっスね。あ、…学校いいんスか?」
「今は黄瀬ちんの方が心配。…あ、別に下りなくてもいいよ。なんなら俺開けるしー」
自分で歩けるっスよ!なんて言う黄瀬をおぶったまま、紫原はサクサクと中に入っていく。
…懸命な判断だ。倒れられても困るし。

黄瀬を着替えさせたり熱を測ったりしていると、買い物組が到着したらしい。
「お疲れ、赤ちん。黒ちんとミドちんも」
「涼太はどうだ?」
「今寝ちゃったところ。熱はそんなでもないけど、疲れてるみたい。ぐっすりだよ」
赤司と紫原が声をひそめて会話する。
「無理してたんですね、黄瀬君」
「あぁ、涼太の仕事が最近増えたのには気付いてたんだが…」
「別に赤ちんのせいじゃないよー」
…そうか、仕事忙しかったのか。
確かに1on1求められる回数も減ったし、疲れていたのだろう。
よく見れば、うっすらと隈ができている黄瀬の顔。
エロいとか言ってる場合じゃないな。…やっぱりエロいけど。

黄瀬が起きるまでに食事を作っておこうと立ち上がったのは、赤司とテツだった。
「あ、俺もおなかすいたー」
続いて紫原も立ち上がる。…黄瀬んち漁るつもりかお前。
「敦のお菓子も買ってきたよ。涼太を頑張って運んだからね」
「さっすが赤ちん」
三人が台所へと行ってしまい、残されたのは緑間と俺。
「起こすんじゃないのだよ」
「テメェなんなんださっきから!」
俺は猿かなんかか!
文句を言おうとしたところで、ポケットで携帯が振動した。
無視しようかとも思ったそれは、しかしなかなか鳴り止もうとしない。
「…青峰、鳴ってるのだよ」
「うっせぇなわかってるよ!…げっ、さつき」
時計を見れば、ちょうど休み時間だ。
同じクラスの俺と緑間がいないことを訝しんでかけてきたのだろう。
「ちょっと出てくるわ」
騒がしくなることは容易に想像できたので、俺は緑間に睨まれる前に早々に寝室を出た。

「…なんでこんなに疲れなきゃいけねぇんだよ…」
さつきの小言を聞き流し、適当に言い訳をして、電話を切った。
これはもう緑間に当たり散らしてやろうと思いつつ、ドアを開けた。
…そのまま、ドアを閉める。
台所に行って、紫原のお菓子を奪ってやろう。
今、ここには入れない。

こんなふうに、手を繋ぎながら眠っているヤツらを。
起こすほど、俺は野暮じゃない。


Good Night!
(今だけ、だかんな)

20121108

みかん様もうローリング土下座しながら献上させていただきます…!
キセ黄緑黄寄りのつもり。



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