小説 | ナノ


(灰黄)

コミックス(〜18巻)未登場の灰崎さん出てます



「…黒子っち、手」
「え?…あぁ、すみません」
一緒に下校していたら、隣を歩いていた黒子っちの手が不意に触れた。
「…手、あったかいんスね」
「そうですか?普通ですよ」
「きっと黒子っち、心があったかいんスよ」
「それ、逆ですよ」

手が冷たい人は心が温かい。
よく言うけど、きっとそんなの嘘だ。
だって、冷たい手を持っているあの男の心が温かいなんて。
ありえないこと、だから。

「そういえば、黄瀬君の家はこっちじゃないですよね。何か用事でもあるんですか?」
「えっ!?…あ、あぁ、そっスよ!ちょっとスポーツ店に用事が…」
見え透いた嘘だった。
だって、スポーツ店なんかとっくに過ぎてる。
「……そうですか」
黒子っちも気付いてるだろうに、何も言わないでいてくれる。
…やっぱり黒子っちは、冷たくないと思う。
でも、一般的にはここでちゃんと聞いて心配したりしないと、冷たいってことになるのかな。

「じゃあ、俺こっちっスから」
「…、はい、また明日」
別れ道を見て、黒子っちは一瞬驚いたように目を見開いた。
きっと、気付いたんだろう。
だけど黒子っちは言及したりせず、反対側の道へと進む。
その背をしばらく見送ってから、俺も歩き出す。
あまり待たせると、あいつは不機嫌になるから。

「…遅かったじゃねぇか。リョータぁ」
「帰宅部のショウゴ君と違って忙しいんスよ」
「言ってろ」
チャイムを鳴らすと、一瞬でドアが開いた。
まるで待っていたかのようなタイミングだ。
きっとそれは間違いない、けれど。
玄関に引き込まれ、ドアも閉めずに唇に噛みつかれた。

…彼が待っていたのは俺じゃない。
俺の、身体だ。

「先飯食うか?」
「できてるんスか?」
「あぁ。お前が遅いから作っといた」
「別に遅くないし。てかショウゴ君が料理っていつ聞いても笑えるっスね」
「文句あんなら食うな」
ショウゴ君の料理は普通にレベル高くて、初めて食べさせてもらったときは驚いたものだ。
最初のうちは違和感があったそれに慣れるほど、たくさんの夜をここで過ごしてきたけれど。
きっと今でも、ショウゴ君との間には、はじめの頃と同じ壁がある。

「…ねぇ、ショウゴ君」
ソファに座らされ、鍋を温める後ろ姿を眺めながら、言葉が不意に口をついた。
「俺のこと、好きっスか?」

あ、と思ったのは。
ショウゴ君がキッチンを出て、こちらに近付いてきたとき。
「…どんな答えが欲しいんだ、リョータ?」
「…う、あ」
どんな答えが欲しいか、なんて。
言えるはずがない。
それはきっと、ショウゴ君が望まない言葉だから。
「まぁ、そんなんは」
冷たい手が首筋に触れ、視界が傾く。
「自分で考えろよ、リョータ」
…あぁ、食事は後回しか、と場違いなことを考えながら、落ちてくるキスを受け入れるため、目を閉じた。

冷たい手が頬を撫でる。
きっとこの手と同じように、心も冷たいんだろうなと思う。
だけど、その心の片隅にでも、ちょっとでもいいから。
俺が存在することを、願ってしまうくらいには。
この男に、絆されている自覚はある。

……けれど。
たとえ、存在していなかったとしても、きっと俺は離れられないだろう。
だって、俺に触れるこの冷たい手は、あまりにも心地よい。


冷たい手のひらは誘惑上手
(その体温に、溺れる)

20120808

無辜様に提出します。
素敵企画を見つけてカッとなって参加した。英訳全然してないけど後悔はしていない。
ショウゴ君が料理上手だとなんか萌える。
本当はショウゴ君ちはボロアパートにしようと思ったけど、帝光私立だし金持ちそうだよなー…。



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