小説 | ナノ


(うさぎ様へ/赤黄)


「あの、えっと…赤司っち?」
「どうした?涼太」
にこにこ、と音のしそうな微笑みを浮かべる彼。
俺の恋人、赤司征十郎は中学時代の同級生だ。
だが、俺の記憶が正しければ、彼の進学した高校は京都にあったはずだ。
ここは東京のスタジオ前。
今日は何の変哲もない平日。
時計を見れば、午後二時を少し回ったところ。
…明らかにおかしい。
「撮影はもう終わりか?」
「え、あ、はいっス。これから部活に行こうかなって…」
「そうか。涼太は頑張り屋だな」
頭一つ分くらいの高さで、赤司っちは笑う。
ぽん、と頭に手が乗せられた。
かぁっと、頬が熱くなる。
こんな風にされるのは、はじめてだから。
「ほら、行こう涼太」
頭からあっという間に離された手を名残惜しく思っていれば、その優しい熱は右手に移動する。
手を繋いでいる、と認識して、また俺の頬は熱くなった。
「え、あ、…赤司っち…手、」
「嫌かい?」
「え!?いや、全然嫌とかそんなっス!」
「じゃあいいだろう」
いやいいだろうって。
普段、人の目に触れるところでこういうことはあんまりしない。
…から、慣れない。
「ほら涼太、早く歩かないと遅れるぞ」
「…ていうか赤司っち、今日部活とか学校とか…」
「今日は創立記念日だよ。部活も休みだ」
「…そうなん、スか」
「まぁ、…休みじゃなくても来るかもな、今日は」
「え?」
「…あんな留守電入れられちゃ、な」
「…あ」

たぶん眠かったせいで、あんまり覚えてないけど。
疲れていたんだと思う。
ダイレクトに留守電に繋がった赤司っちの携帯に、なぜだかすごく寂しくなって。
会いたいとか、寂しいとか。
そんな内容を、泣きながら吹き込んだような、気がする。

「あ、赤司っち…ごめんなさい」
遠いのに、赤司っちだって疲れてるのに。
困らせるつもりなんて、全然なかったのに。
「ん?どうして謝るんだ?」
「だって、あんなこと言って、…俺、迷惑、かけたっスよね」
「…迷惑?まさか」
僕も涼太に会いたかったから、と。
ふわりと笑う赤司っちは。本当に。
「…優しいっスね、赤司っち」
「そんなことはないさ。言っただろう?涼太に会いたかったのは、僕も同じだ」
秘密の話をするように、背伸びして耳元で小さな声で。
「僕も、寂しかったんだよ」
そのまま、頬に一瞬、柔らかく触れた。

「赤司っち、やっぱり優しい」
「そんなことはないって」
「ううん、ちゃんとわかってるじゃないスか」

だって、俺も彼も。
もう、寂しくはない。


寂しがり屋の君に
(寂しがり屋の僕から)

20120820

うさぎ様お待たせいたしました!
甘やかしてますか、これ。
赤司様久々に書いたら安定しない…



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