小説 | ナノ


(空様へ/赤黄)


『で、そのあと笠松先輩が…』
電話の向こうで、少し怒ったような声で涼太は言う。
悪口にはならない程度の、ちょっとした愚痴。
大輝がメールを返さないだの。
古典のここがわからないだの。
今はちょうど、笠松さんに理由もなくしばかれた話をしている。

……面白くないな、と不意に思った。

涼太の恋人は僕で、僕の恋人は涼太。
それなのに、さっきから。
その恋人の口から出るのは、僕ではない名前と話題ばかり。
適当に相槌を打ちながらも、内心では少しずつ不機嫌になる。

京都と神奈川が遠いのも、彼の周りに他のたくさんの人がいるのも。
とっくにわかっていた、つもりだったのに。
…思っていたより結構、僕はわがままなんだろうか。

『……赤司っち?』
相槌をサボっていたら、怪訝そうな声で名前を呼ばれた。
『どうしたんスか?急に黙って…』
「……いや、ごめん、大丈夫だよ。少しボーッとして…」
僕の名前が、やっと呼ばれて嬉しいとか。
僕は本当に、彼に絆されているらしい。
『疲れてるんスか?スマセン長電話して…』
「いや、いいよ。声が聞けて嬉しい」
『…赤司っち…それは反則っス…』
電話の向こうで、赤くなったのがわかった。
可愛い。
…この可愛さは、僕だけ知ってればいいこと。
「じゃあ、また明日」
『はいっス。じゃあ、今日くらいに電話するっスね』
通話の切れた携帯を操作し、別の電話番号を呼び出す。
「…あ、どうも」
『え、どちら様?』
「…赤司征十郎、と言えばわかりますよね」
『…赤司、ってもしかして洛山の、』

「涼太は僕のなんで、手は出さないでくださいね」

一方的に電話を切って、荷物を持ち上げる。
明日、明後日と部活は休みだ。
涼太に内緒で、明日行こうと思ってたけど。
…到着は少し、予定より早まりそうだ。

涼太を抱き締める前に、大輝に牽制にでも行こうかな。


だってのだから
(これくらい、当然でしょう?)

20120720

空様、お待たせいたしました!
独占欲の強い赤司様は、黄瀬に絡む男の連絡先はあの手この手で手に入れます。
赤司征十郎に不可能なしだと思っている。
こんなのでスイマセン…



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