小説 | ナノ


(くろみつ様へ/黒黄)


「あ、黒子っち!こっちっスよー」
誠凛を出ると、女子の群れができていた。
その中からひとつ飛びぬけた、黄色の頭。
僕が彼を見つけるのが容易であるように、彼にとってもそうらしい。
さっきまで、雑誌からそのまま出てきたような完璧なモデルスマイルだった彼の笑顔が変わる。

僕だけに向けられるそれは。
…彼、そのものの笑顔。

「スイマセン、連れが来たんでまた今度っス!」
女子の群れから抜け出して、彼はこちらにやってくる。
「相変わらずすごいですね」
「へへー」
「褒めてないです」
「…そうっスか…」
くるくると変わる表情。
それが楽しくて、わざとからかってること。
…彼は、知っているだろうか。

「黒子っち、何飲むっスか?くんでくるっスよ」
「…では、烏龍茶を」
「はーい」
ファミレスに入って、向かい合って座る。
火神君ほどではないにしろ、少なくとも僕よりは食べる彼の前には、ハンバーグとスパゲティが乗っていた鉄板とお皿が置かれている。
この上さらにパフェなんか食べようというのだから恐れ入る。モデルとしていいのかその摂取カロリーは。
そっと席を立って、テーブルを回り込んで。
黄瀬君の荷物を少しずらして、ソファー側のそちらに座る。
「…あれ、黒子っちそっち座るんスか?じゃあ俺椅子に、」
「いえ、黄瀬君もこっちに座ってください」
「え?…いいんスか?」
嬉しそうに頬を染めて、黄瀬君は僕の隣に腰かける。
二人分のスペースとはいえ、お互いの荷物もあるし、両側の席も埋まっている。
自然に密着する形となって、黄瀬君の顔がますます赤くなるのがわかった。
「くくく黒子っち、近い…」
「そうですか?…あ、ほら、パフェ来ましたよ。一口ください」
「…黒子っち、こっち来たのパフェのためっスか?」
「さぁ」
そんなわけないと。黄瀬君とくっつくための口実なのだと。
彼は、知っているだろうか。

「ここまででいいですよ」
「え、でも…」
「電車、乗り遅れちゃいますから」
ファミレスを出て、途中まで一緒に歩いて。
この別れ道を右に曲がれば僕の家で、左に行けば彼が電車に乗る駅。
ああ、明日が平日でさえなければ。
手を引っ張って右に曲がって、一晩中一緒にいられるのに。
「寂しいっス、黒子っち、離れたくない…」
「僕もですよ」
「…なんで棒読みなんスか」
「だって、本当はあんまり寂しくないです」
だって、いつでも会えるから。
僕が、君を想っている限り。
君のことは、ずっと傍に感じられるから。
「…なんか、俺ばっかり、好きみたい…」
あまりにも寂しそうな、泣き出しそうな声で言うから。
そっと、その唇を塞ぐ。
「また、すぐに会えますよ」
「え、黒子っち、」
「また今度」
驚いている声を聞きながら、その場を後にする。
だってそのままそこにいたら。

…真っ赤な顔を、見られてしまう。


知っているだろうか
(僕がどれだけ君を好きか)

20120712

くろみつ様に捧げます!
放課後デート黒黄です。
男前黒子さんを目指していたはず…なのですが…。
ちなみにこれはファミレスで烏龍茶を飲みながら考えました。もちろんお一人様です。←



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