小説 | ナノ


(空様へ/緑黄)



「もういいっス!緑間っちのばかぁぁっ!」
玄関が開き、また閉じる音がする。
黄瀬が出て行ったことがわかったが、動くのも面倒だ。
先までの言い争いで、すっかり気力を使い果たしてしまった俺は、ベッドに寝転がったまま天井を見上げた。

原因は覚えていない。
俺はたぶん黄瀬が悪いんだと思うし、黄瀬は黄瀬で緑間っちが悪いと考えているに違いない。
喧嘩はしょっちゅうする。
気が合わないのだ。
黄瀬のことは好きだし、愛されている自覚もあるが、怒って暴れるあいつは手がつけられない。
嫌いではないし、冷静になって思い返してみれば可愛いとすら感じるが、そういうときは大抵俺も怒っているわけで。

だんだんと冷え始めた頭。
せっかくのオフなのに、なにも今日喧嘩することはなかっただろうか。
中学時代ならともかく、別々の強豪校に進学した今、休みはほとんどかぶらないというのに。
黄瀬が泊まりにくるのだって、すごく久しぶりだというのに。

…もし、もしもの話だが。
俺が海常に行くにしろ、(あいつの頭では不可能だろうが)黄瀬が秀徳に来るにしろ。
同じ高校に進学していれば、こんな風にはならなかっただろうか。
いつでも会えて、そばにいられて。
…もっと穏やかな恋人同士に、なれていただろうか。

「…ふん、馬鹿らしい」
そうだったら、俺達はとっくに終わっていただろう。
だって、気が合わないんだから。
近ければ近いだけ、喧嘩の数も増えるだろう。
…そんな黄瀬だから、俺は。

眠くなってきた。
筋トレをすませ、いつものように眼鏡を外して。
人事は、尽くした。
目を閉じる。
だから、お願い。

黄瀬、帰ってきて、

…きっと寝ぼけているんだ、だから。
だから、こんなこと思うんだ。

……帰ってこないはずがないのに。
慣れるほど喧嘩をしてきて、このあとどうなるかなどわかっているのに。


意識は、ほとんどもうなくて。
ドアが開く音が、遠く聞こえて。
「…ごめん、ごめんね緑間っち」
その泣きそうな声も、微かに聞こえた。
「大好きっスよ」
抱き締めたいのに、それはできなくて。
もはや眠くて、片手くらいしか動かないから。
ベッドの隣に体重がかかったのはわかったけれど。
そこから先はわからず、俺の意識は完全に沈んでいった。

…目を覚ます。
朝日が差し込む窓を見て、カーテンを閉め忘れたことに気付いて。
隣を見ると、誰もいないけれど。
確かに、そこには誰かが眠った形跡。
だれか、なんて。
…一人しかいないが。

美味しそうな匂いがしてきた。
階下のキッチンには、今日はいない母親の代わりに、エプロン姿もサマになるモデルが立っている。
眼鏡をかけて伸びをする。
降りていったら、足音に気付いて振り向いたあいつは、おはようと言うのだろう。
それか、ごめんが先だろうか。
それに応えて、頭を撫でて。
…それか、たまには気付かれないように降りていって、俺から謝ってみるのもありだろうか。

…謝るなんて、形だけだとわかってる。
俺も、あいつも。

だって仲直りなんて、昨日の夜に。

そっと手を握っただけで、もう完了しているのだから。


微睡みの
(それだけで、俺達は充分だ)

20120708

空様へ捧げます!
なんだこれ何がしたいんだ。
つまり緑間っちは、半分寝ぼけながら黄瀬の手をぎゅっとしたわけです。
そんだけで伝わってると思っているようです。
この話の黄瀬はその通り、ちゃんとわかってるわけですが。描写がないだけで。
と思ったけどやっぱちげーわ。だといけないので一応形式的に謝り合う。
なんて説明書いたけど書いてる本人が全くわかってない。
二つ目のリクエストでリベンジします空様ごめんなさい!



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