小説 | ナノ


(小百合様へ/黒←黄)


「くろこっち、」
すきです。

唇は動くけれど、声が出ない。
黒子っちが好きで、だいすきで、
それを伝えたいと願うのに。

「どうしたんですか、黄瀬君?」
呟くように言った名前に反応して、黒子っちが振り向く。
「…呼んだ、だけっス」
モデル業で鍛えた完璧な作り笑いで黒子っちに応える。
声も震えなかった。
いいな俺、俳優にもチャレンジしようかな。
「…そうですか。…じゃあ、行きますか」
今日は、黒子っちと二人で二軍の試合について行くことになっていた。
教育係だったあの頃のように、二人で一緒に。

…素直に喜べないのはたぶん。
……この想いを、自覚してしまったから。

好きな子ができたら、今までは積極的にアタックしてきた。
話しかけて、一緒にいて、好きだって言って。
…黒子っちにも、そうしてきたけれど。
……それ以上には、進めなかった。

「黒子っち好きっス!俺達親友っスよね!」
「いきなりなんですか」
友達としてなら。
こんな風に簡単に、想いを打ち明けられるのに。

本当の好きは、どうしても、言えない。

だから、今日もただの友達のふりをする。
尻尾を振って、黒子っちに懐く黄瀬涼太の演技は、もう慣れたもの。
…胸の痛みには、いつまで経っても慣れないけれど。

怖いのは変わることじゃない。
黒子っちに拒絶されることだ。
…これがもし、黒子っちじゃなかったら。
今まで好きになった子の誰かだったら。
好きだと、告げていたかもしれないが。

…だって、黒子っちには、
拒絶されること、わかりきってる。

変えたい、変えなくちゃ。
俺の中の俺は、そう叫んでいる。
だって、このままだと苦しくてたまらない。
いつまで、そばにいられるんだろうって。
…いつ、誰かに取られてしまうんだろうって、考えて。
だけど、もうひとりの俺は、耳を塞いで隠れている。
もう、戻れなくなるんだと。

告げる勇気も、隠す強さも。
俺は、持ち合わせていない。

だから、お願い黒子っち。


気付いて気付かないで
(ありえない結末を望む)

20120708

小百合様へ捧げます。
相変わらずごちゃごちゃしてまとまらない文章ですみません…
黒子っちにだけ臆病な黄瀬君萌ゆる。



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