小説 | ナノ


(火稀様へ/青黄)


…ビニール傘って、どうして透明なんだろう。

ビニール傘越しに、ピンクの傘が揺れているのが見える。
その下で二つの身体が、ぴったりくっついているのがわかる。
…その身体のひとつが、見慣れた姿であることも。

「もーっ、青峰君たらぁ…」
鈴の鳴るような、高めのかわいい声。
俺には絶対出せないそれで、彼女は彼の名前を呼んだ。
青峰っちの隣の席で、家の方向も同じで。
傘を忘れた青峰っちを、わざわざ部活終了まで待って、入れてあげる子。
親切な子だと、青峰っちはそう思ってる。
…だけど俺は、それだけじゃないって知ってる。
彼女が青峰っちを好きだって知ってる。

背が高い青峰っちが、傘を持っているのだろう。
「佐藤ー、もっと寄れって」
こんなに近くにいるのに、青峰っちは俺に気付かない。
楽しそうな声で彼女を呼んで、見えないけれどきっと笑ってる。

…足が止まる。
……もし青峰っちが、彼女の気持ちに気付いていたとしたら?
知った上であえて、こうしていたとしたら?
青峰っちが好きなのは、もともと女の子。
彼女はかわいいし、青峰っち好みの巨乳だ。
…俺よりも彼女を、恋人として選びたいのだとしたら?

…あぁ、このビニール傘は不良品だ。
どしゃ降りの雨がこんなに、頬をびしょびしょにするなんて。

空が明るくなっても。
ピンク色の傘が閉じられても。
彼女が彼とさよならしても。
俺に気付いた彼が、振り向いて名前を呼んでも。
目の前がぼやけて、何も見えない。

雨はまだ、やまない。


レイニーデイ
(青が、見えない)

20120706

火稀様に捧げます。
黄瀬は青峰っち送るっスよー、と誘ったら佐藤待ってるからいいやと断られたようです。
青峰っち的には黄瀬家の方向違うし疲れてるから送らせんのは気が引けるし、てな感じで他意はありません。彼に足りないのはデリカシーです。
ちなみに桃っちは黒子っちと下校中。



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