小説 | ナノ


(蒼玉様へ/緑←黄)


授業を終えて部室に行くと、ベンチの上に狸の信楽焼が鎮座していた。
…緑間っちは相変わらず、来るのが早い。
俺も誰より急いで来たのに、教室から部室までの距離だけはどうにもならなかった。
……だけど、しばらくはきっと誰も来ない。
二人きりだ。
そのために、女の子を適当にあしらってまで走ってきたんだから。

「…黄瀬。今日は早いのだな」
「あ、緑間っち」
トイレにでも行っていたのか、緑間っちが部室に入ってきた。
「緑間っちは相変わらず早いっスね」
「当然なのだよ。人事を尽くしているのだから」
「青峰っちはまだっスか?」
「あいつは今日日直なのだよ」
「へー、そうなんスか」
……知ってるっスよ。
日直でもない限り、青峰っちも緑間っちと一緒に早く来ることも。
…だから今日は、特に急いだのだと。
そう言ったら、緑間っちはどうするだろうか。
(…きっと気付かないっスけどね。緑間っちは)
『お前、そんなに青峰が嫌いだったのか?意外なのだよ』
なんて、驚いた顔をする姿が目に浮かぶ。
…だって、緑間っちは鈍感だ。
『きーちゃん、バレバレだよ』
桃っちに呆れられるほど、積極的にアタックしてるつもりなのに。
当の緑間っちだけ、全く気付く様子がなくて。
今だって、こんなに近くに二人きりで、俺はすっごいドキドキしてて。
なのに、緑間っちは平然と…

「…黄瀬?どうしたのだよ」
「はひゅっ!?」
「急に黙り込んだりして。もしかして具合でも…」
「だだだ大丈夫っスから…!」
どうしてそんなに顔近いんスかっ…!
わー、まつ毛長いっス…肌キレー…って違う!
キス、したいなー…ってもっと違う!
落ち着くっス黄瀬涼太…平常心平常心…!
至近距離で見つめ合うのは心臓に悪すぎる。
咄嗟に目を逸らすと、狸と目が合った。
緑間っちの信楽焼だ。
「あっ、あの狸、可愛いっスね!」
緑間っちと距離が欲しくて、狸に興味を持ったふりをして近づく。
「?急になんなのだよ。ポン太を持ってきたのは初めてではないのに」
「改めて見るとっスよ!このつぶらな瞳とか…」
なんとなく緑間っちに似て…ってそれは違う!
だって緑間っちの方が可愛…ってそうでもなくて!
(おかしいっスよ、俺…)
「そうだろう。なんといってもポン太は三年前…」
ひとり格闘する俺などそっちのけ。
褒められて嬉しいのか、わずかに頬を染めて緑間っちは語り始める。
…その表情、狸相手なのが少し悔しい。
……だって俺はこんなに、緑間っちのこと好きなのに。

だけど、
「…好きなんスよね。そういう所も」

…自分の失言に気付いたのは、部室が無音に包まれてからだった。
緑間っちが狸の話をやめたのだと気付いて、青くなる。
(だって、こんな。好きとか…)
告白したも、同然な。

「黄瀬…」
名前を呼ばれ、恐る恐る緑間っちの方を見る。
(…あれ?)
緑間っちは予想に反して、怒っても困ってもいない。
それどころか…笑ってこちらに近づいてくる。
(これは、もしかして、もしかする?)
俺の心臓は、いろんな意味で破裂寸前。

「…え?」
……どうしてこうなった。
俺の目の前まで歩いてきた緑間っちは、なぜか。
「ポン太はやれないが、このポン吉をやるのだよ」
…ポン太の半分くらいのサイズの信楽焼を、俺の腕に押しつけた。
「黄瀬がそんなに信楽焼を好きだなんて、嬉しいのだよ!」

いい笑顔でそう言い放った緑間っち。
…正直、ツッコミ所しかない。
そのネーミングセンスとか。
何体持ち歩いているんだとか。

でも、その笑顔を見てしまったら。
「…ありがと緑間っち。大事にするっス」
…そう言うしか、ないじゃないか。

すごく鈍感で、たまに変人で。
だけど、俺は、そんな緑間っちが好きなんだ。


そんなが好きです
(だけどいつかは、振り向かせるっスよ)

20120706

蒼玉様、二つ目おまたせしました。
ただの思春黄です本当にありがt(ry
これを積極的とは言いませんヘタレと言いますすみません…!
私自身がヘタレなのでここまででした…
このようなものでよろしければお持ち帰りください。



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