小説 | ナノ


(ぺぺ様へ/キセ黄)


「黄瀬ちーん」
「どうしたんスか?紫原っち」
「新作ー。一本あげる」
休み時間。
席替えで惜しくも離れてしまった紫原っちが、俺の席へとやってくる。
差し出したのは、おなじみの棒状のお菓子。
カラフルな字体が、『トマトバナナヨーグルト青汁味』とポップに踊っている。
…ずいぶん欲張りな味だ。
「てか紫原っち、これ毒味…」
「ほら、あーん」
抗議の声は、何ともいえない色をしたまいう棒に遮られた。
噛み砕くと、何ともいえない味が広がる。
…混ぜるな危険。
「どう?おいし?」
「…げっ、なにこれバナナの果肉…?紫原っち水っ」
「どうぞ」
ぐっ、とストローのようなものが口に突っ込まれた。
吸い上げると、冷たさと甘い味が広がる。
「バニラシェイク?…って、黒子っち…」
いつものことながら、いつからいたんだ黒子っち。
そしていつマジバに行ったんスか。
「紫原君、その危険物は買うのをやめた方がいいとあれほど…」
「だって、珍しかったんだもーん」
「く、黒子っち…これもう返すっス」
バニラシェイクは美味しいが、いかんせんトマトバナナヨーグルト青汁味との相性が悪い。
というか相性のいい飲み物が思いつかない。
「黒ちんも食べる?」
「結構です」
「おいしいのにー」
俺の食べかけを片手、もう片手に新しく開けたもう一本を持って、紫原っちは頬を膨らませる。
…紫原っちの味覚が非常に心配だ。

「…あ、きーちゃん!」
口の中はまだ妙な味がするから、お茶でも買おうと教室を出る。
「俺買ってこよーか?」
紫原っちの声がしたけど、普通のお茶が飲みたいから自分で行くことにした。
その途中、緑間っちと桃っちのクラスの前を通ったら、桃っちに呼び止められた。
「桃っちと緑間っちじゃないっスか。一緒なんて珍しいっスね」
「今から黄瀬のクラスに行こうと思ってたのだよ」
「渡したいモノがあったの」
緑間っちが渡してきたのは…ぬいぐるみ?
しかも…なんだこれ。クマでもないし、茶色の…
「双子座の今日のラッキーアイテム、マングースのぬいぐるみなのだよ」
「マングース!?」
「ちなみに俺はカエルだ」
片手にカエルを抱えながらマングースを差し出してくる緑間っちはとてもシュールだ。
…なんか見慣れたけど。
「私からはこれ!」
桃っちは笑顔で、可愛らしい透明な袋を目の前でひらひら振った。
中身、は…えっと…
「……兵器?」
「失礼な!クッキーよ!」
クッキー…って、こんなおどろおどろしいマーブル模様だったっスけ…?
そういえば青峰っちが、さつきは料理ひどいって言ってたなー…。
「あ、ありがとうっス…」
「今回は自信作なの!なのに青峰君ったら、味見なんか出来るかって…」
自信作…これで…?
「あとでいただくっス」
「えー、遠慮しないで今でも」
「あとで!」
これ材料とか全くわかんないけど、食ったら倒れ伏す自信がある。
曖昧に笑ってポケットにしまうと、桃っちは少し不満そうながらも頷いてくれた。

「…今日はどうしたんスかね…」
それからもバスケ部員に会うたびに、様々なプレゼントをなぜかもらった。
何でだ。
誕生日ならとっくに過ぎてるし。
「あ、黄瀬ー」
「ん、あ、青峰っち。これから部活っスか?」
教室を出たところで呼び止められ、振り向くと久しぶりにジャージ姿の青峰っちがいた。
最近あまり練習に来ないから、それを見るのも久しぶりだ。
珍しいっスね、の言葉は飲み込む。
…そう言えば、この人は拗ねて帰ってしまうかもしれないから。
「あ、そうだ青峰っち久しぶりに」
「…あぁ、1on1だろ?今日はそのために行くんだよ」
「……え?青峰っち、熱でもあるんじゃ…」
「なんでだよ!」
なんで、というけれど、普段は俺から申し込むばっかりで。
才能が開花してからは、特に。
そんな青峰っちから1on1しよう、なんて。

「どうしたんだよ。やらねーのか?」
「やるっスやるっス!今日は負けないっスよ!」
「ハッ。やってみやがれ」

「……どうしたんスか?赤司っち…?」
練習を終えて、青峰っちと1on1して。
結局一回も勝てなくて、悔しい思いをしながらロッカールームで着替え、部室に帰ったら。
「涼太、おいで」
…なぜか。
赤司っちに膝枕されて頭を撫でられる、という今の状況が完成した。
「…気持ちいいか?涼太」
「気持ちいい、ス、けど…」
「そうか」
あー…ホントに気持ちいい…。
さすがいつも紫原っち従わせてるだけあって、頭撫でんの上手いっスわ。
「よしよし」
「あー…赤司っち、寝ちゃいそうっス…」
最近少し疲れ気味だったのもあり、うとうとと微睡み始めた、とき。

「…赤ちん、それはずるいよ」
「抜け駆けはダメなのだよ」
「つーか、黄瀬寝そうじゃん」
「赤司君、趣旨が違います」
部室のドアが勢いよく開いた。
びっくりして身体を起こせば、紫原っちに緑間っち、青峰っちと黒子っちが立っている。
「赤司君、黄瀬君を離してください」
黒子っちの言葉に首を傾げつつ、赤司っちに視線を移す。
「赤司っち、言われてますけど…」
「うるさいテツヤ黙れあっちいけ」
「何ですかその喋り方。可愛くないです」
赤司っちの腕は気付くと腰に回されていた。
反対側から黒子っちが俺の腕をつかむ。
「…ぷっ、あははっ」
普段の2人ではありえないくらい、真剣な顔。
それが面白くて思わず吹き出せば、両側の2人は一瞬顔を見合わせ、それから微笑む。
「やっと笑ってくれましたね、黄瀬君」
「疲れてるのはわかってたけど、やっぱり僕達は涼太の笑った顔が見たいから」
…あぁ、と今日一日のみんなの行動の意味を理解する。
最近仕事が上手くいかなくて、ちょっと疲れてて。
隠しているつもりだったけれど、バレバレだったらしい。
少しだけばつが悪くなり、俯いてポケットに手を突っ込む。
…と。
ポケットの中にある、ビニールの包みに手が当たった。
桃っちがくれた食物兵器…もとい、クッキー。
これもきっと、俺を元気づけるためのものなのだろう。
そう思うと途端に愛しくなって、取り出して包みを開く。
「…ってお前、それまさかさつきの…」
「待つのだよ黄瀬…!」
ガリッと、岩でも噛み砕いているかのような感触と、なんともいえない香りに味。
薄れゆく意識の中、それでも俺は、笑っていたように思う。


笑って笑って
(その気持ちが一番嬉しい)

20120713

ぺぺ様に捧げます。
桃井さんの兵器製造料理の腕に全て持ってかれたキセ黄。
他のバスケ部員には赤司様が命令してそう。
そして紫原っちの味覚が…



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