小説 | ナノ


(カシス様へ/赤→黄←青)


「僕はね、涼太をぐちゃぐちゃにしたいんだ」
赤司はそう言うと、俺との距離を一歩詰めた。
「涼太が僕以外に笑うなんて許せない。僕のためだけに閉じ込めたい」
「…黄瀬は、モノじゃねぇよ」
「そうだね。でも涼太は僕のだ」
ニヤリと不敵に笑う。
…元々変なヤツだったが、最近の赤司は将来が本当に心配だ。なんて客観的に考える。
……まぁこいつは頭がいいから、人生を間違えるなんてないんだろうけど。
黄瀬を好きになったことは、恐らく赤司の人生で一度きりの選択ミスだろう。
それからますます赤司は危険になり、全てが狂っていったから。
…もっとも本人は、それを間違いだなんて思っていないだろうけれど。
……それに、人のこと言えないし。
「涼太は誰にも渡さない。…大輝、お前にもね」
乾いた笑いを響かせながら、俺の脇をすり抜けて歩き去る。
…急に呼び出されて、何かと思ったら。
「…牽制、か」
誰にも言っていない。さつきすら気付いてない気持ち。
…だけど、あの元キャプテンは完全に気付いていて、そのためだけに京都からやってきた。
俺が黄瀬を、自分と同じ意味で愛しているのだと。

「…くそー…」
赤司はそのまま出て行ってしまったらしく、陽の落ちる直前の狭い児童公園には他の人影はない。
ベンチに座ったまま、なかなかそこから動けずにいる俺。
…無性に、腹が立つ。
あんなことを言う赤司に、そして、
…それをどこかで肯定する、自分に。

だって、俺も思ってる。
あの無邪気な笑顔を、声を。
俺だけに向ければいいのに。
一生ずっと、俺の腕の中にいればいいのにって。

「…あれ、青峰っち?」
「……あ?黄瀬…?」
気付くと、目の前にそいつが立っていた。
「何で、おまえ…」
「今日、こっちで練習試合あって。せっかくなんで実家泊まろうと思ってたんスよ」
ここ通ると近道で、と俺の隣に座って黄瀬は言う。
「しばらく前から声かけてたんスけど…体調でも悪いんスか?」
「え?…あ、あぁ、悪い…元気だけど、ちょっと考え込んでて」
「なんかあったんスか?」
…黄瀬は、なにもしらないから。
だから素直に心配そうに、俺の顔を覗き込んでくる。
俺はこんなに、こんなに汚いのに。

無意識のように手が、男のくせにきめ細かな頬に触れる。
…このまま、壊してしまおうかと。
汚れた感情が、嘲笑うように駆け抜ける。

…だけど。
「青峰っち?…ふふっ、くすぐったいっスよ。どうしたんスか?」
「あ、悪い…何でもねぇよ」
この手はそれ以上、進めない。
赤司なら、ためらいなく壊せるだろうに。
…汚してはいけないと、堕ちるのは俺ひとりで充分なのだと。
最後の理性が、そう告げる。

一緒に堕ちて、そう言ったら。
この綺麗な顔が、きっと歪んでしまうから。

…だけど、この最後の理性が死んだら。
俺はもう、一番底まで堕ちるんだろう。
もう、戻れないくらい。
赤司と同じくらいに。

…いや、認めたくないけれど。
たぶん、きっともう手遅れで。
戻ることなんか、できるわけがない。

「もう帰らないスか?もう暗いし心配だし、送るっスよ」
気付けばすっかり陽は落ちて、無機質な白い街灯の光が黄瀬を照らしていた。

想えば想っただけ、深みにはまるとわかっていながら。
目の前の彼を愛しいと、想った。

…次に、赤司に会ったら。
俺はどんな言葉を、おくろうか。



(戻ることなど、とうに諦めた)

20120628

カシス様へ捧げます!
信号機好きです、書きにくいけど!
根暗かつ非リア充なのでシリアスは非常に書きやすいです(笑)



[back]