小説 | ナノ


(む〜た様へ/青黄)


「黄瀬──」
授業終了のチャイムから、まだ3分しか経っていない。
彼のクラスの時間割では、この時間は移動教室だったはずなのだが。
…いつから俺の恋人は、瞬間移動を使えるようになったんだろうか。
「またサボったんスか、青峰っち」
「またって何だよ人聞き悪いな。つーかサボってねーし。早めに終わったんだよ」
授業は終了したばかりで、まだ退室していない先生。
そんなものはものともせず、普通に侵入してきた青峰っちは、俺の腕をつかんだ。
「早くメシ行こうぜ」
「わわっ、青峰っち引っ張っちゃやっス!普通に痛いっス!」
青峰っちの手に教科書類はなく、お弁当。
いわく、『教科書はさつきに持たせた。弁当は持ってった』とのこと。
ぷんぷん怒っている桃っちが目に浮かぶようだ。
慌てて俺も昼食をつかんで、急かされるままに教室を後にした。

昼休みの屋上。
雨の日以外は俺と青峰っちのお弁当スポットとなっているそこに、他に人影はない。
理由は単純で、ここは本来生徒の立ち入りが禁じられているからだ。
当然のように鍵を持っていた赤司っちに頼み込んで、ようやく手に入れた二人きりの場所。
この場所には感謝してる。
だって、
「どこ座ってんだよ涼太、こっちだろ」
青峰っちのスキンシップは、人前で受けるには少々激しすぎるから。

「涼太、いいにおいする」
逃げようとした俺を見事な速さの無駄遣いで捕まえた青峰っちは、膝の間に俺をとらえて、肩に顔を埋めている。
二人きりの時にしか呼ばれない下の名前が、ちょっとだけくすぐったい。
「…ご飯食べるっスよ、青峰っち」
「俺はお前を食べたい」
「こんな場所で何を…っ!」
「誰もいないだろ。…つーか、」
こんな場所じゃなきゃ、いいんだ?
「っ!」
不意打ち、でもきっと彼は確信犯。
身長と距離の都合上、耳のすぐ近くで囁かれた声に、飛び上がりそうになる。
「あああ、あおみねっち…!?」
「ほら、メシだろ?」
何でもないような顔で笑って、青峰っちは俺を膝から下ろして隣に座らせる。
半ば放心状態になりつつも、機械的に昼メシを口に運んでしまうのは、運動部の性のようなもの。
「お。涼太のそれ、うまそうじゃん」
「え?これこの前青峰っち微妙って」
「食わせろ」
さすが俺様、俺の話なんて無視っスか。
返事も聞かず、俺の手にあった菓子パンの半分近くが、青峰っちの口の中に消えた。
「…あれ、あんまうまくねぇや」
「だから言ったじゃ…っ…!」

「やっぱり甘くてうまいわ」
離れたばかりの唇を舌で拭って、青峰っちは満足そうに微笑んだ。

「…甘いのはあんたの方っス」
小さく呟けば、青峰っちは笑って。
それを見て、俺も笑って。
そして俺達は、またひとつキスをする。


されちゃってます
(そして愛しちゃってます)

20120624

む〜た様に捧げます。
黄瀬大好きな青峰というか青峰大好きな黄瀬というか…ただいちゃついてるだけですね(笑)
もちろん赤司様は見張ってるといいと思います。←



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