小説 | ナノ


6/18 Happy Birthday
Ryota Kise!


(笠黄)

「かっさまつせんぱーいっ!」
「…んだよ黄瀬。黙れ」
「俺、今日誕生日なんスよ!」

ドカッ!と小気味よい音が響く。
6月18日の昼休み、俺の身体にはいつものように痛みが走った。

「いてーっス!蹴るなんてヒドイっスよ!」
「お前がうぜーからだろ。誕生日とか女子か!」
床に倒され涙目で見上げると、笠松先輩は思いっきり睨んできた。
…うぅヒドイ…俺達付き合ってるんスよね…。

「リョウタくん、おめでとー」
「お菓子あげるからこっちおいでよ」
先輩のクラスメート達が手招きしている。
「ありがとうっス!…じゃあ先輩、また部活で!」
先輩は窓の方を向いたまま。
…怒っちゃったっスかね…。
少し泣きたくなりつつも、モデル業で鍛えた笑顔をクラスメートの方に向けた。

「珍しく青峰っちがメールくれたんスよ!」
「へぇ」
「桃っちも可愛いデコメで…」
「ほー」
…絶対怒ってるっス。
相槌は打ってくれてるものの、いつもほど会話が弾まない帰り道。
また、少しだけ泣きたくなりながら並んで歩く。

「黄瀬」
不意に声をかけられ、咄嗟に足を止めてしまう。
笠松先輩も少し前で立ち止まって、振り向く。
「お前、誕生日嬉しいか?」

「…嬉しっスよ。…だって」
「だって?」
「…先輩に、近付けるから」
この人は二つも上で、憧れで。
いつも、少しだけ遠く感じる。
…だけど、今日からしばらくは。
少しだけ、近くにいられる気がする。

「…お前…」
震える声がそう紡ぎ、赤い顔をした笠松先輩が近付いてくる。
少し熱い手が、俺の手を握った。
「…おめでとう、なんて言わねぇからな」
そのまま、歩き出す。

…充分、だ。
そんな言葉より、この距離の方が。
ずっと、ずっと嬉しいんだから。
……それに。
さっき小さくこぼした言葉、ちゃんと聞こえてた。
笠松先輩の本音、聞こえてた。

「…できるわけ、ないっス」
「ん?何か言ったか?」
「何でもないっスよ!それより先輩んちまで送ってっていいっスか?」
「俺が送るんだよ、馬鹿」

この大きな人を追い越すなんて。
いくら年を重ねようと、できるわけないのに。


言ってやらないけど
(おとなにならないで、なんて)

20120618

黄瀬君お誕生日おめでとう!
笠松先輩はツンデレだと思います。
というかボコデレ?



[back]