小説 | ナノ


(黒黄)


「君を忘れられないんだ」
事務所の先輩俳優と、今人気の若手女優が、画面の中でキスをする。
去年公開され、そこそこヒットした映画。
よくあるラブストーリーの結末は、これまたよくあるキスシーンで。
だけど俺は、それを見て確かに涙をこぼした。
それは、感動なんて可愛らしいものじゃなかったけれど。

だって、俺と黒子っちに、ハッピーエンドなんかないから。

そんな映画を見たせいか、夜には夢を見た。
起こるはずのない夢。
『好きです、黄瀬君』
黒子っちのヒロインになって、黒子っちとキスをする夢。
…そうやって黒子っちは、寝ても覚めても俺を乱す。

次の日、少しだけ寝不足で学校に行って、黒子っちの夢を見た、と話す。
もちろんキスした、なんて言わないけど。
「夢は夢だから、いいんじゃないですか?」
返ってきた反応は、実に黒子っちらしいもので。
…そんな勝手なこと、言わないでほしい。
俺が黒子っちをどれだけ好きか、わかってないくせに。
……なーんて。俺の方がよっぽど勝手だ。

昼過ぎから降り出した雨は、部活が終わる時間になってもやむ気配すら見せない。
手の中で傘をくるくるまわして、ため息。
これがなければ、同じ方向の黒子っちが、傘に入れてくれたかもしれないのに。

黒子っちは部活の後職員室に寄るとかで部室を出て、そのまま一度も会っていない。
さっき見た下駄箱には、スニーカーがきちんと揃えて置かれていたから、帰ってはいないはずだけど。
だけど帰ってしまっていても、俺に文句を言う資格などないのだ。
だって、帰る約束もしていなければ。
待って待たれるような間柄でも、ないんだから。

不意に、泣きたくなる。
…泣いちゃダメだ、と自分を律する。
この想いが叶わなくても、俺は笑ってなきゃダメだ。
それしか、できないのに。

家からの着信が携帯に届く。
今日は早めに帰る、と言ってきたから、心配してかけてきているのだろう。
モデルなんかやってると、親が心配性になっていけない。
黒子っちはまだ来ない。…そろそろ、かな。
帰ろう、と傘を開いた。
途端に、気付く。
これは、俺のじゃなくて。
黒子っちの、それだと。
色合いは少し似ていて、でも間違えるはずがなかったもの。
慌てて下駄箱へと戻ろうと、振り返って走り出す。
間に合うだろうか。
影が薄い彼のことだから、盗まれたのだと諦めて、帰ってしまってはいないだろうか、
と。

「おっちょこちょいが過ぎますよ黄瀬君。君の傘はこっちです」

驚きで、間違えた傘を閉じ、渡り廊下を通るのももどかしく、濡れるのも気にせず下駄箱に向かう途中に。
急に、雨に濡れなくなって。
上を見上げたら、見慣れた傘が視界に入った。
少し視線を下げたら、いつも通りの黒子っちがいて。
「せっかくなんで、…一緒に、帰りませんか?」

…黒子っちは、俺をどうしたいんだろう。
そんな風に、微笑まないで。
……君のことを考える、永遠ループが止まらなくなる。

俺じゃ、ダメなくせに。
俺を、君じゃなきゃダメにさせる。
俺の、ハートブレイカー


ハートブレイカー
(壊したなら責任とって)

20120618

これにてお題制覇ー!
責任とって黒子っちくださいからの逆に持ち帰られて美味しくいただかれてしまえばいいよ!
お付き合いありがとうございました!



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