小説 | ナノ


(和準)


桐青高校の部活は基本、卒業式の日は練習がなくて、後輩達は卒業生との別れを惜しむ。
それはもちろん、野球部も同じ。
今頃校庭では、先輩達をみんなで囲んで、最後の時を過ごしているだろう。
…だけど、行く気がしなくて。

だって行ったら、本当に和さんがいなくなりそうだから。

誰もいない三年六組の教室。
窓際の一番後ろの席に、いつも和さんがいた。
隣の席は席替えしても大抵慎吾さんで、お昼休みはいなかったから、いつもここに座っていた。
メオトバッテリー、と呼ばれ、いつも隣にいた。
ずっと続くと、そう思っていた。
もちろんそんなことはなくて、最近の俺の隣はもっぱら利央の場所で。
和さんの隣も、知らない先輩だったり慎吾さんだったりして。
…いつしか、なりたくなっていた、和さんの特別な隣には、後にも先にも俺は立てないんだろう。
特等席だ、なんて自惚れていた。
そんなことはなかったのに。

ふと空を見上げると、伸びていく飛行機雲が見えた。
青い空に引かれた白いラインは、あっという間に溶けていく。
きっと、和さんの中の俺も、すぐにこうやって埋もれていく。

…チャイムが鳴り始めた。
下校時刻の予鈴。
あと5分したら、みんな帰ってしまう。
和さんも、帰ってしまう。
チャイムが鳴り止んだ。
このまま、終わるなんて嫌だ。
唐突に、そう思った。

この気持ちを伝えないまま、離れるなんてできないと。

なんとなく、屋上に向かう。
校庭に向かうべきだと思うのに。
誰もいない廊下を走りながら、和さんとの思い出が頭の中を巡る。
中学の部活で、初めて会ったとき。
初めて声をかけてくれたとき。
初めてエースになって、頭を撫でてくれたこと。
春夏秋冬、いつでもいた和さん。

屋上の扉を開くと、あちらを向いた背中を見つけた。
…また思い出す、ひとつの記憶。
こんな風に、俺も泣いてた。
理由は忘れたけれど、こうやって。
そして、和さんは。こうやって。

「…準太?」
そう、こうやって、肩を抱いててくれたんだ。
振り向いた顔に、また想いが溢れる。

「和さん、…好きです」

和さんと聞く、最後のチャイムが鳴りだした。


ライン
(この境界線を越えるとき)

20120615

和さんお誕生日おめでとう!
季節感?なにそれおいしいの?
準太の告白の結果は…ご想像におまかせしますw



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