小説 | ナノ


(壱様へ/赤黄)


「黄瀬ちん、ちゃんと20点とってよ」
「むしろ40点は余裕だろ」
今日の練習試合の相手は、近所にある高校。
こちらは中学生とはいえ、相手は無名で相手にもならないチームだ。
キセキの世代、と呼ばれる一軍のレギュラー達ならならなおのこと。
「余裕っスよ!」
初めて半年ほどとはいえ、黄瀬涼太に求められるものも無論同じである。
簡単なミーティングを終え、アップを始めようという時。
「…涼太、ちょっと」
赤司征十郎。
勝利を生命活動と言ってはばからないキャプテンが黄瀬を呼んだ。

赤司と黄瀬は恋人同士だ。
誰にも秘密の恋愛関係を日々築いている。
…もっとも、本人達が気付いていないだけで、桃井や黒子にはとっくに気付かれているのだが。

…黄瀬には、ひとつ悩みがある。
赤司に愛されていないのではないかと、時々思うことだ。
例えば、紫原に呼びかけるときとか。
赤司は優しく微笑むから。
…心が狭いんだと、わかってる。
そんなの、普通のことなのに。

「…赤司っち?どうしたんスか?」
赤司は何も言わず、黄瀬の前を歩く。
その背中は、少し怒っているように見えて、黄瀬は慌てた。
なんだろう、どうしよう。俺ふられるんスか!?なんて考えて俯いていると、赤司が突然止まった。
「…わっ、」
それに気付かず、黄瀬は思いっきり赤司の背中にぶつかってしまう。
転びそうになる黄瀬を平然と受け止めて、赤司は言った。
「涼太は今日は休みだ」
「え…」
なんでっスか、とこぼれた言葉に、赤司は少し不機嫌そうに言う。
「だって、お前」
そこで言葉を切り、赤司は、
……黄瀬の右足首を、無表情で蹴り飛ばした。

「っっっ!?」
声にならない叫びを上げて、しゃがみ込む。
だってそこは、その場所は。
「そんな足で何言ってるんだ」
昨日の体育のサッカーで転んで、捻挫した場所だから。
「赤司っち、気付いて…」
「涼太が僕に隠し事できると思ってるのか?」
あれ、もしかして俺、バカにされてる?と黄瀬は軽く落ち込む。
「…俺、大丈夫っス」
「またそんなこと言って。悪化したらどうするんだ」
黄瀬に目線を合わせてしゃがんで、赤司は微笑む。
「僕に任せて、涼太」
ふわ、と頭に手が乗せられた。
耳まで熱くなるのを感じて、黄瀬は力なく何度か頷く。
…とはいえ、最初から肯定されるとしか思っていない赤司は、もはやそんな仕草を見てはいないのだけれど。

黄瀬がベンチから見ていた試合は、トリプルスコアに近い帝光中の大勝で終わった。
「ほら、涼太。送るから」
その言葉で、並んで歩く帰り道。
「赤司っち…荷物くらい自分で」
「いいから黙って歩け。本当は抱えていきたいくらいだ」
「それは勘弁っス」
二人ぶんの荷物を肩にかけて、赤司はひょこひょこ歩く黄瀬に歩幅を合わせてくれている。
「赤司っち」
「ん?」
「…どうして、気付いてくれたんスか?」

「涼太をずっと見てたから」

…あぁ、そうだ、わかってたことじゃないか。
窓際の席で、俺が体育の時はずっと見ててくれることとか。
今日の試合では、いつにも増して頑張ってくれたこととか。
今、俺の隣で、耳まで真っ赤にしながら、言ってくれてることも。

キスしたいな、と不意に思った。
ここでしたら、怒られるだろうかと。

…塞がれた、唇。
強気な瞳は閉じられて、長い睫毛が揺れている。
……あぁ、やっぱり赤司っちはずるい。
全部、気付いてしまう。
だけど、…だからこそ、愛しい。

それに、と黄瀬も目を閉じる。
赤司っちが俺を知ってるのと同じくらい、俺も赤司っちを知ってる。
だって、


ぜんぶてるから
(君のこと、知ってるんだ)

20120623

壱様に捧げます!
珍しく三人称で書いてみようとしたらどうしてこうなった。
お互いがお互いのストーカーみたいになってそうな赤黄が萌える。
高校めっちゃ遠いのになんで知ってんの!?みたいなのも可愛い。



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