小説 | ナノ


(緑黄)

昔から、何でもそうだった。
失くしたら少し泣けば、忘れることなど容易にできた。
お気に入りのものなんて、大したものじゃなかったから。

『緑間っち!だいすきっスよ!』
アイツのことも、同じだと思っていた。
…いやそもそも、思い上がっていたのかもしれない。
絶対に、黄瀬は俺から離れていかないと。

黄瀬は俺を好きだと言って、しつこくつきまとってきていた。
俺は、黄瀬に対してそういった類の感情など持ち合わせていなくて。
たまに、気まぐれに相手をする程度。
時が経つにつれて、その気まぐれは頻度を増していき。
黄瀬の顔が早く見たくて、目覚ましなんてかけなくても起きられた。

気付かなかった。
その想いの、正体に。

『高校、海常に行こうと思うんスよ』
俺が進路を秀徳に決め、当然黄瀬もそうしたのだろうと、聞いてみた。
なのに答えは、俺の想像にはなかったもので。
『緑間っちともさよならっスね』
その時俺は、確かに。
何かが壊れる音を聞いた。

ここにいて、離れないで。なんて。
もちろん口になどできない。
だって俺と黄瀬は、そんな関係じゃないから。
それからも、俺は黄瀬の言葉を、そっけない返事でかわし続けた。
…失うのを恐れていると、悟られたくなくて。

ただの子供でしかなかった俺が、背伸びして手に入れた答え。
それは、理解なんかできるようなものではなくて。
…それに気付いたのは、黄瀬がいなくなった後だった。

今までしつこくてうるさかったそいつは、もう隣にはいない。
「…清々するのだよ、馬鹿め」
ひとりぼっちの空間に虚しく響いた声に、返事をする者はもう、どこにもいないのだ。

ずっと欲しいと思っていた、静かな空間を手に入れたのに。

『緑間っち!』

失ったものの重さに今、やっと気付いた。


ひねくれ者
(どんなに欲しても、二度と帰らない)

20120606

キセキの世代はみんなひねくれ者な気がするけど、+ツンデレな緑間っちはマジで最強そう。



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