小説 | ナノ





「ほら見て、初雪!」
すれ違ったカップルの女の子が、手を繋いだ彼氏に言う。
…羨ましいと、思う。
俺もあんな風に、榛名と手を繋げたらいいのに。
「俺、あんまり電車乗らねーんだよな。高瀬、見送りありがとな」
「暇だしいいよ、別に」
隣の榛名は、俺の大好きな笑顔を浮かべている。
無邪気に、笑う。
これからへの期待に、胸を弾ませて。
きっと、気にも留めていないんだろう。
…俺の隣から、いなくなることなんて。
だって未来の榛名の隣には、俺じゃない誰かがいて。
俺なんか、ただの通過点。…いや、きっと通過点にも満たない。
この後電車に乗ったら、榛名の中で俺は過去になる。
きっといつか、忘れてしまう。
…近付いてしまったせいで、俺の中の榛名は消えないのに。

…本当は、少し迷った。
榛名のチームの本拠地の近くの大学に行こうかと。
だけど、それはやめた。
そんな真似すれば、ますます榛名から離れられないから。
…自分で決めたことなのに、それは今になって俺を苦しめる。
もうすぐ列車が来る、この時になって。

…だけど、泣いたりしない。
俺は榛名の友達なんだ。
少なくとも榛名の中で、俺はそう認識されているはずだ。
…俺の中では、違うけれど。
だから、最後まで笑っていたい。

手のひらに落ちた雪が、そっと溶けて消えた。
…この想いも、こんな風に簡単に溶けていけばいいのに。

列車が滑り込んでくる。
榛名とのタイムリミットは、すぐそこだ。
「東京なんかすぐそこだぜ。また会おうな」
そんなこと言って、榛名はまたニカッと笑う。
また、なんて存在しない。俺達はここでさよならだ。
会う機会があったとしても、俺はもう会えないから。
だってもう、こんなにも苦しいのに。

「準太」

顔を見たら、泣いてしまいそうで。
俯いていたら、名前が呼ばれる。
準太、と下の名前が。
何の気まぐれだ、今ここで。
…そんなの、涙を溢れさせるには、十分すぎる。
「こっち向けよ、準太」
…もういい。どうせ最後なんだ。
…大好きなあの笑顔をもう一度見たい。
……この気持ちを伝えたい。

「あのな、」

言葉と、時が、全て止まる。
いつの間にか、榛名と俺との間に空間はなかった。

「好きだ」

これは、夢なのだろうか。
…夢でも何でも構わない。
周りの目だって気にならない。
今だけは、榛名の腕の中で泣いていたい。

「またメールする」
「うん」
「電話もする」
「うん」
「東京は近い。呼んだらすぐ飛んでくる」
「…うん」
名残惜しげに体が離される。
見計らったように、発車のベルが響く。
…ドラマみたいだ、なんてガラでもないことを思った。

来年の今頃、俺はどうしているだろう。
榛名はどうしているだろう。
全く想像がつかないけれど、ひとつだけリアルに想像できる。
距離は離れていたとしても、俺と榛名はきっと、どこの誰よりも近くにいるんだろう。

来年も、再来年も、ずっと。


初めてのが終わる時
(それは永遠の愛へと変わる)

20120605

長すぎてふたつに分割ですw
どこで見たかは忘れましたが、この『恋が終わる=愛に変わる』ってハッピーエンドな解釈がすきです。
ていうか江戸時代じゃないんだし、埼玉と東京って近いですよね(笑)
我が家のデフォは名前呼びなので、『高瀬』って呼ぶ榛名さん新鮮!



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